第9章 視察
・・・・・・・・・・
「伽耶」
日の沈みかけた頃、信長様達が戻ってきた。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
泥だらけの姿が現場の大変さを物語っていて、私は水に冷やしておいた手ぬぐいを絞ってみんなに渡した。
「白湯もあるので飲んで下さい」
床几と呼ばれるイスを並べて座ってもらい、白湯を順に配って行く。
「伽耶 、貴様も座れ」
信長様の横の床几をポンと叩き信長様が私を呼ぶ。
「私は大丈夫です。村の人達にこれから汁物とおにぎりを配るので、ちょっと行ってきますね」
午前は白湯で胃を少し刺激したから、今度は栄養のあるものをお腹に入れてもらいたい。
「分かった。それが済み次第城へ戻る。あとは村の者に任せて貴様も帰り支度をせよ」
「え、もう帰るんですか?」
復興には何日もかかると聞いたけど…
「応急処置と今後の目処はたった。物資と人手さえ足りておれば、あとは村の者達で頑張れる」
「すごい、たった一日で目処が立ったんですか?」
「貴様の持ってきた着物と炊き出し作戦が功を奏した。食べるものがあるならば己らで頑張れると皆やる気でみなぎっておった。俺たちの出る幕はない」
ニッと、信長様は優しく笑い、私の胸はやっぱりドクンと大きくはねた。
「……っ、ありがとうございます。素直に嬉しいです」
「ふっ、置いていかれたくなかったら早く配って来い」
「あ、はい。直ぐに配ってきます。待ってて下さいね」
何だか今日の信長様と私は、良い上司と部下って感じ、部下の意見を聞き入れてくれ、それがうまく行ったと褒めてくれる有能な上司みたい。
(今朝のお味噌汁もそうだったけど、褒められるのはやっぱり嬉しい。もっと頑張ってみんなにの役に立ちたい。そしてもっと褒めてもらえる様に頑張ろう)
嬉しい気持ちが抑えられない中、私は満ち足りた気分でご飯と汁物を配り終えた。