第9章 視察
「それにしても…酷い状況だね」
被害から何日か経っていることもあって、川の流れは穏やかに戻っているから簡易橋を掛けることはそんなに大変ではないらしいけど、崩れた土砂は乾いて固まってしまっている為、撤去作業は難航すると言っていた。そして大勢の怪我人と栄養失調の村人達の介助と、今日一日ではとてもじゃないけど解決できない。
「そうだな。だが大名によっては復興を諦め見捨てることもある中で、ここの住人はまだついてる方だ」
「見捨てることなんてあるの?ひどい…」
「そんなの日常茶飯だ。復興するより、新しい土地を切り拓いた方が手っ取り早いからな。だが、それだとそこの民を見捨てることになる。信長様はそれをされない」
「そうなんだ…。住んでる土地で待遇が変わってしまうなんて辛いね」
「それをなくす為の信長様の天下布武だ」
「うん。政宗も、願いは同じなんだね」
ここに集まる武将達の願いは様々だろうけど、皆信長様の掲げる信念に賛同して集まっている。
「俺に惚れただろ?」
「だからそれはないから」
もう政宗とのこのやり取りはコントだ。
でも政宗がいてくれたおかげで怯んでいた気持ちが軽くなって自然と体が動く様になった。
「政宗ありがとう。もう私一人でもできるから大丈夫だよ」
「そうか、頑張れよ」
大鍋に具沢山の汁物を完成させ、政宗は次の救援部隊へと走って行った。
「ついてるのは、私も一緒だね」
住んでる土地で待遇が変わる様に、私がもし違う土地にタイムスリップしていたら…こんな風に戦国ライフを楽しく感じることができたんだろうか?
皆に温かく見守られて送るここでの生活は楽しくて…来たばかりの頃は、失恋にタイムスリップになんの罰かと思ったけど、今では神様がくれた最高の傷心旅行なんじゃないかと思ってる。だからこそ、少しでもみんなの役に立って帰ろうと思うし、悔いが残らない様に、自分にできる精一杯の恩返しをして現代に帰りたい。