第9章 視察
「別の男に惚れたか?」
「へっ?何でそうなるのっ?」
声は思いっきり上ずった。
「最近のお前を見てれば分かる。来た時とは別人の様に表情が柔らかい」
色男は艶やかな笑みを浮かべてそう言った。
「っ、それは…知らない土地に急に連れてこられてニコニコしてる人なんていないよ。政宗の馬の上怖かったし…」
「あれくらいじゃなきゃ楽しくないだろ?」
「こっちは死にそうだったよ。初めての乗馬だったのに」
「その時に俺に惚れたか?」
「そんな訳ないじゃん!政宗じゃないよ」
(その間合いをどんどん詰める戦法はやめてほしい)
「俺じゃないってことは、他にいるんだろ?」
またもや言葉の端々を捉える鋭い質問が飛んできた。
「っ、」
何もかもお見通しだぞと言っている様な視線にドキッとする。
「……っ、好きな人なんかいないよ。もう当分恋はしないって決めてるの。恋をすると余計な労力使ってなんか疲れちゃうし…」
綺麗に見られたい。可愛く思われたい。誰よりも好きだと言われたい。
そんな彼からの思いが欲しくて頑張ることに疲れてしまったから、当分恋愛はしないしできない。
なのに、
「するしないで決められるものじゃないだろ?」
頭じゃない、心でするものだろ。と政宗のその言葉は言ってるようで…
「決められるよ。私には向いてないって分かるし。ほらっ、色気より食い気って言うの?私は美味しいものを食べてる時が一番幸せだからそれでいいの」
私は慌ててその言葉を否定し言い訳を作る。
「……そうか。ならまた美味いもん見つけて持っていってやるよ」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」
自分でも分からない本当の気持ちの上に、作り上げた気持ちを重ねて重ねて隠して行く。一体どれほどの偽りの気持ちを上塗りすれば、その気持ちが本物になるんだろう…?