第9章 視察
救援本部では武将達が既に集まっていて、信長様が来るなり会議が始まった。
救援部隊は中洲に取り残された村人の救助を最優先に、簡易的な橋を架ける部隊と救護部隊、被害状況の確認と今後必要となる支援の確認をする部隊とに大まかに分けられ、私は動ける村人(主に女性達)と協力して怪我人の介護と炊き出し部隊に配属された。
「伽耶様、湯が沸きました」
「ありがとうございます。他にも、あるだけの鍋全てにお湯を沸かして、まずは白湯と、体を拭く手ぬぐいを人々に配ってあげて下さい」
「分かりました」
聞いたところ、水害に遭ってから数日が過ぎた村人達の胃には何も入ってないことから、急に食べ物を入れるのは良くないと思い、白湯から口にしてもらうことにした。あとは、良く被災地でも言われる感染症予防の為に、体を拭いてもらい清潔に保つことを心がけた。
「それにしても、ファスティングの経験がこんなところで役に立つとは…」
大根を刻みながら、ファスティング明けの回復食として食べた大根汁がとても美味しかった事を思い出す。
「そう言えば、私何でファスティングしたんだっけ?」
時期はちょうど2年前の今くらい…友達と休みを取ってお寺で断食ダイエットをした。
三日間酵素ドリンクと水しか飲めない過酷なダイエットだったけど、体がデトックスされてスッキリして理想の体型に近づけた。
「あ、そうだ。大地と海に行くから綺麗に水着を着たくてダイエットしたんだ」
たった一泊二日の海旅行だったけど、その日のために、ファスティングにヨガにスキンケアにって、気合を入れてた。
「大地って、誰だ?」
ところ構わず大きな独り言を言っていたら、私の隣で豪快に野菜を切っていた政宗に聞かれた。
「あーっと、前好きだった人」
「ってことは今はもう好きじゃないって事だな?」
そう突っ込まれ、自分でも驚いた。
「…うん。すごく好きだったけど、今は違うかな」
ごく自然に、さらりとそう答えることができた。
(いつの間にか、思い出に変わってる…?)
自分の心境の変化に驚いている間にも質問は続く。