第1章 松の巻
ひとつも品のないけばけばしい淡紅色の着物に水色の細い帯。これが新入りの衣装だ。
しかもこの着物は肌がすっかり透けて見えるほど薄く、丈はおしりがやっと隠れるほどしかない。
「下履きなんてないからね!タダメシ喰らいのおまえたちには贅沢すぎる衣装だ。
………それ着たら「新入り部屋」に行くよ、ついて来な!」
衣装を身に着けた新入り三人は領殿の後について再び廓の廊下に出た。
しばらく歩かされた後、狭い階段を降りてゆく。どたばたいう物音と獣めいた嬌声がだんだんと近付いてきた。
冷たくじめじめした廓の地下に「新入り部屋」がある。
そこには揃いの衣装を着た数十人の娘たちが犇めき合っていた。
取っ組み合いの喧嘩をしている者とそれを囃し立てる者、金切り声を上げながら何かを取り合っている者。気が触れてしまったのか隅っこで独り奇声を発している者………
まさに「地獄絵図」と言うにふさわしい光景だね。
領殿が部屋の入口にぶら下がっている太鼓を打ち鳴らした。
嬌声が止み、娘たちの目が一斉にこちらを向く。
「新入りだよ。」
領殿に背中を押され、三人は「地獄」の中に放り込まれた。
領殿が去るとすぐに娘たちはまた騒ぎ始めた。
新入りは声をかけられることもなく、部屋の端にちんまりと座ったままだ。
部屋は地下で灯りは蝋燭が数本あるのみ、昼も夜も分からないが、乙はお腹の虫が鳴いたのでそろそろ晩餉の時間だと分かった様だね。
ドンドンとまた入口の太鼓が鳴らされた。
「洗い場」にいた人夫たちだ。
それぞれに大きな鉢を抱えていた。
部屋の入口の床に無造作に置かれた鉢は、一つには具の入っていない蒸した饅頭が詰め込まれ、二つ目には干した肉、三つ目には茹でたくず野菜が入っている。
ドン!
もう一度太鼓が鳴らされると、娘たちは一斉に鉢に飛びついた。
それはそれは物凄い勢いで喰らいつく。互いに押し退け、時には引っ掻き合い噛みつき合い………これはもう人間じゃないね。
新入り三人は呆気にとられて、ただこの食餌風景をぽかんと見守っているだけだった。
「あんたたち!ぼうっとしてると喰いっぱぐれるよ!!」
髪を振り乱して両手に饅頭と干し肉をようやく引っ掴んできた娘の一人が叫んだ。
「飢えて病気になったら裏の沼に放り込まれるんだからね!」