第3章 梅の巻
「梅の花の刺繍…………」
「そうです、梅と鶯。二つで一つなんです。」
「……………。」
「姉がお城に上がる為、村を出る前の日に二人で市場に行ったんです。
そこでこちらの手巾を見つけて、高いものだったけど姉は村の人たちの小さなお手伝いをしてコツコツ貯めたお小遣いをはたいて買ってくれました…………。
梅の刺繍の方を僕に、鶯は姉が持ってこれで『離れてても一緒だね。』って…………。
ありがとうございます!
また………姉に会うことが出来ました!」
春鶯は王と妃、そして乙の目をしっかりと見て微笑んだ………。
「乙様、お願いです。
あの子守唄、唄ってくれますか?」
「……………」
少しの間を置いて、乙は澄んだ声で唄い始めた。
――――――途中で歌が止まった。
「――――あんなことされて孕まされた子でもね、自分のお腹に入ってると愛おしくなってくるものよ。
冷たく暗い牢の中で梅花は膨らんだお腹を撫でながらこの歌を唄い始めたの…………何度も何度も唄うものだからあたしも覚えちゃって。
梅花の子、あんたの姪っ子だわね、そう言えば似てたわ、愛らしい女の子。
産まれたのは夜中で。あたしが取り上げたのよ。その辺のボロでくるんで梅花に抱かせて、夜明けまで二人でずっと子守唄を唄ってた…………」
語る乙の大きな目からぽろぽろ大粒の涙が溢れ始めた。
「バカ!春鶯!」
ガバリと乙は春鶯に飛びかかった。
「なんであたしばっかり泣かすのよ!
こういう時は泣いていいんだよ!」
不意に抱き締められて一瞬戸惑った春鶯だが…………長い睫毛の縁がキラリと光ったかと思うと止めどもなく涙が溢れて、赤子の様に泣きじゃくり始めた。
「…………春鶯、辛いね。いっぱい泣きなさい。」
乙は春鶯の背中をぽんぽんと叩きながら子守唄の
続きを唄い出した――――――
王と妃は顔を見合わせると黙って立ち上がり、静かに部屋を出て行った。