第3章 梅の巻
―――――――暖かい日差し溢れる佳日。
廓の庭には娼妓たちとその馴染み客がたくさんひしめき合っていた。
こんな賑々しく華やかなのは久しぶりだね。
乙が春鶯に手を引かれて姿を現した。
わっと人垣が湧く。
今日は一段と美しく装っているね。
入口が騒がしくなり、人夫たちが一本の梅の苗木を運んできた。
拍手と歓声で迎えられた。
「国中、いや世界中探した銘木だ、どうだい?」
振る舞い酒にもはやご機嫌のお大尽。
「ふっ、まあまあね。」
「相変わらず手厳しいねえ、乙比女サマは。
しかしせっかくの植樹、梅の木で本当にいいのかい?乙ならもっと華やかな枝垂れや八重の桜とかいっそ深紅の薔薇とかが良かったんじゃ…………」
「いいの!梅の木じゃないとダメなの!
―――――ねえ、春鶯?」
乙の目は優しく微笑んでいるね。
隣の春鶯は恭しく礼をした。
奥から正装した女将とめかしこんだ領殿が現れたよ。
「お集まりの皆さん!
ここに居る乙比女がこの廓始まって以来の売り上げを叩き出しました。これは伝説の娼妓として知られている『佳松』以来の快挙です!
よって廓の慣例に従い、記念の植樹をいたします!」
女将が告げると集まった人々がドッと湧いた。
おや?客の中には例によって変装した若い王とその妃もいるねえ。
「ネズ!ナン!」
どうやら乙はすぐに二人を見つけたね。
「沙良、今日はお招きありがとう。」
「植樹にたくさん出資いただいたもの!呼ばないワケないでしょ?
あら?一王様は?」
「あー、兄ィはやっぱり妃たちがコワいから留守番してるってさ。」
「あら残念!…………でも可笑しいっ!」
乙はケラケラと笑う。
「さあ、植樹が始まるわ。」
人夫たちが私の隣に穴を掘り始めたよ。
「………乙様!」
「どうしたの?春鶯。」