第3章 梅の巻
幾日か経って――――――
二頭の駿馬(しゅんめ)に跨った貴公子が廓に乗りつけたよ。
馬でやってくるお客は珍しいし、これがまた二人とも見目麗しき貴公子で。もっとも頭巾に顔半分は覆っているがね、どこぞの高貴な方が忍んで参ったという風情だね。
もう娼妓たちは大騒ぎさ。
特に背の低い方の貴公子の涼しげな瞳と佇まいは車寄せの下人をも魅了して、誰が待合に茶を持って行くかでちょっとした争いが起きたほどだよ。
―――――待合から二人は最上階の部屋へ案内される。だろうね、この上客もやはり乙の客さ。
色めき立っていた娼妓たちは深いため息をついて散っていく。
部屋の格子戸が開けられ、乙が貴公子たちを出迎えた。
「ネズ!」
「沙良!」
頭巾と顔の覆いを外した背の低い方の貴公子と乙が抱き合う。
おやまあ!男装の麗人だったんだね。
「沙良、ますます綺麗になって!
髪型もステキ!沙良に似合ってる。」
最近の乙は顎の下でまっすぐに切り揃えた髪をしている。
「ふふ、ありがと。外国で流行ってる髪型なのよ。
ネズは…………悪いけどあんまり変わらないわね。」
「あはは!でもこの格好は久し振りよ。」
「だな、普段はなかなかに立派な后(きさき)ぶりなんたぜ。」
背の高い方も装束を外したね。こちらはどうやら男で間違いない様だね。
「たまにいらっしゃいよ、廓が華やいでいいわ。特にネズ、あんたモテモテよ。」
と乙はネズと呼ばれる女の衿元から一葉の文を抜き取る。
「えっ!?何それ?何時の間に。」
「『庭の松の木の下でお待ちします』だってよ!恋文よ、これは。」
「なっ!?あの待合で桜茶を持ってきた妓だな、妙にネズにカラダを寄せてたから気になってたんだ!」
「わあ、じゃあ帰りに『松の木』に寄らなきゃ!」
「だーめ――だ―――――!!」
「どうして?せっかくのお手紙なのに。」
「ネズ――――――!!!」
二人のやり取りに乙は笑い転げているね。
どうやら三人は旧知の仲の様だね。
ひとしきり思い出話が済んだ後――――――――
「そろそろ本題に入ろうか………
沙良、どこまで話したの?」
「私が知ってるところまで全部よ。
梅花が乳飲み子を抱えて王都を出されるところまで―――」
「いいのか?沙良、知らない方が幸せってこともあるぜ?」