第1章 松の巻
「さあ、一人ずつこっちの部屋に来な!」
小部屋の奥に更にある小部屋の扉を開けて領殿はまず「甲」を呼んだ。
「いやあああああっ!うああああーん!!」
程なくしていつもの様に悲鳴と嗚咽が聞こえたよ。新入りが入った日には毎度のことさ。
廓の妓たちはもう慣れっこだけどね。
乙と丙は肩をビクつかせてるよ。
一糸纏わぬ姿で奥の小部屋から出された甲。
真っ赤な顔をして目からは涙が止まらない。
「うぇっ、うぇっ…………お母さん……」
どんな辛い境遇だったんだろうねえ。
まあ、売られてくる様な娘はだいたい似通ったもんだ。領殿はいちいち気になどしないさ。
「次!乙!」
例の娘が入っていったよ。
「着てるもの全部脱いで。下履きもだ。
おや?ずいぶんといいものを着てるじゃないか。」
傍らに打ち捨てられている甲から剥ぎ取ったと思われるものはとても着物とは言い難いもので垢だらけのボロ布といった風情だ。
それに比べて乙が脱いだ着物は簡素だけど一つも染みもない上品な仕立てのものだった。
「ふん、後で出入りに売りつけるか。当面のお前たちの「まま」代くらいにはなるさ。」
相変わらず手厳しいねえ、領殿は。
「裸になったらこれに座るんだよ!」
領殿が顎で示したのは、何とまあおぞましい形の椅子!
肘掛けの様に見えるのは「脚台」でここに両脚を載せて座れば「大事なトコロ」が丸見えさ。
これから「商売道具」になるトコロだからね、使い物になるかどうかじっくり「検分」されるというワケだ。
新入りはまず裸にされて一泣き、脚を拡げられて二泣きするもんだが、乙は涙一つ零さないねえ。それどころか領殿に言われる前にさっさと台に脚を載っけちまったよ。
アソコを検分されるのは初めてではない様子だね。
でもアレには流石に怯えるだろうよ。
今領殿が手にした鉄製の鋏状の器具!
これが新入りを三泣きさせるシロモノだ。
この器具を使ってグイとアソコを拡げられて検分される。
そんなに痛くはない様だが、未通女(おぼこ)には恐ろしいだろうねえ。
でもこの娘は太腿に触れた鉄の冷たさにピクリとカラダを震わせただけだ。やっぱり只者じゃないね。
「おやあ……?」
単眼鏡でアソコを覗き込んでいた領殿が何かに気がついたね?