第2章 竹の巻
鈴音にちょいと厳しめの罰をやったことが良い「見せしめ」になった様だね。
乙にやっかみを露わにする妓はいなくなった。
相変わらず引きも切らず乙にはいろんな客がやって来るよ。かなりな風変わりなのも拒まず相手にして必ず満足させる。
―――――これは才能と努力だね。
今夜もまた怪しげな客が乙の部屋に向かっているよ。頭からくるぶしまで黒い布をすっぽり被った………乗ってきた車は悪くないし伴もついているからかなりなご身分の方だとは思うが?
乙の部屋の前で一言二言告げられた伴は待合の間に戻っていったね。
スウと開けられた戸の向こう側で美しく粧った乙が礼をしてその客を出迎えた。
客は静かに戸を閉めると、黒い装束を取り払った。
バサリという音に驚いて頭を上げた乙の顔が輝いたよ。
「王様!!」
「沙良、しばらくだね。」
何てこったい!この妙な男、この国の王だったのかい!?そして乙と顔見知りだっていうのも驚いたね。
沙良ってのは乙の本名か。
「王様がいらっしゃるのならもっといいお酒を用意させるんだったわ!」
乙はいそいそと立ち上がる。
「沙良、構わないでくれ。どんな客にも分け隔てないという評判を聞いている。」
「あら!お城にも話が届いていたのね?名前は言えないけど何人か役人さんもお忍びで来てるものねえ〜」
「大したものだよ、沙良は。」
王はくつろいだ風で椅子に掛けた。
手に取った盃に酒を注ぐ乙、いや沙良。
「体はいいのか?」
「はい、すっかり元通りです!」
「……改めて、詫びさせてくれ。後宮では本当に辛い思いをさせた。」
深々と頭を下げる王。
「やだやだ、やめてください!王様。王様が悪いんじゃないし、私今とても愉しいの!」
「そうか。沙良が廓(ここ)に入ったと聞いた時、決して絶望からではなく志持ってのことと俺は思ったがその通りだったかな。」
「もちろん、その通りです!
ネズやナンは元気ですか?」
「ああ、仲良くやってるよ。」
昔話に花を咲かせる二人。
驚くことばかりだね、乙は後宮にいたんだね。
「ところで沙良。」
「なあに?王様。」
二人ともだいぶ酒も進んだ様だね。
「本当に愉しんでいるのか?」
「ええ、そうよ。お客さんにキモチ良くなってもらえるのが嬉しいの!」
「沙良はキモチ良いのかい?」