第2章 竹の巻
乙が部屋の戸を開けると、鈴音が立っていた。
青ざめて鬼の形相で。
「あ、びっくりした。鈴音姐さんどうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ!泥棒猫!!」
鈴音はずいずいと乙の部屋に押し入ってきた。
これはいけない!手には刃物を持っているよ。
「危ないっ!」
乙に向けて刃物を振り上げてきた鈴音の前に客の男が立ちはだかった。
崩折れた鈴音の持つ刃物が男の左腕を掠めた。
「きゃああ!!」
悲鳴を上げたのは鈴音の方だった。
薄い下衣が切り裂かれて数滴飛び散った男の血に驚いて我に返った様だね。
「一体どうしたよ?」
騒ぎを聞きつけて領殿たちがやって来た。
「ああ!何て事だい!!」
自分の着物で傷ついた男の腕を押さえている乙。
血のついた刃物を持ったままブルブル震えて立ち尽くしている鈴音。
「……乙が、乙か悪いのよ!私の「ぼん」を盗ったんだからっ!」
おやおや、鈴音が「ぼん」と呼んでいたのはこの男だったんだねえ。
「逆恨みだね、鈴音。どんな理由でもお客に傷を負わせたらどうなるか分かっているね?
お客殿、うちの妓がとんだことを………」
領殿は膝をついた。
「……いや、掠っただけだ、領。大事にしないでくれ。」
そりゃあそうだろう。いいとこの御曹司が妓楼で遊女に刺されたなんて話が拡まったらえらい事だ。
「傷は浅いわ。お医者を呼ばなくても薬草を貼っておけば大丈夫さうよ。
…………痛む?」
「大丈夫だ。それより乙の着物を汚しちまった。すまない。」
「そんなこといいのよ!あ、周りには酔って転んで床の古釘で擦ったとか言うんだよ。」
――――鈴音は領殿が呼んだ人夫に抱えられて見習部屋よりもっと地下の「折檻部屋」に連れて行かれたよ。
そこで鈴音は怖ろしくて言うのも憚られる折檻をひと通り与えられた後、身一つで廓を追い出される。
あとは「夜鷹」しか道はないね。
え?どんな「折檻」かって?
貴女方も好きだねえ〜
知りたかったなら作者に「りくえすと」でもしてみたらどうだい?