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虚飾の宴【R18】

第2章 竹の巻




――――十三夜の明るい月はもうてっぺんまで昇っていた。


いつの間にか縄が解かれちまって私に寄りかかる様にして坐る乙の胸の間に男は顔を埋めていた。
その息はまだ荒い。

「あんた、今夜誰かんとこ行く予定じゃなかったの?」
男の乱れた髪を撫でながら乙は言った。


「……いや、もうどうでもいいンだ。それより君の名前は?ここの娼妓だよな。」


「私は乙、乙比女よ。」

「竜宮の乙姫か……こりゃいいな!

乙、また来るよ。」


「いいけどあたし高いのよ?」

「えっ!?」


乙はフフフと妖艶に笑って男の髪を撫でていた指をまだどこか稚さの残る男の輪郭(かお)に滑らせた。

「……あんたは可愛いから今夜は特別タダにしてあげる!」





―――それから数週間後、男は乙の元にやっとやってきたよ。

「乙、君は高いだけじゃなくてなかなか客が空かないんだな。待ちくたびれたよ。」

乙に注がれた盃を美味そうに飲み干す男。

「フフ、こればっかりはいくらお金を積まれてもね。お客は平等にしたいからね。」


微笑む乙の脇に置いてあるモノを見つけて目を丸くした。


「……………これは?!」

「好きなんでしょ?あの夜だいぶ興奮なさってたから。」

乙は床にグルリと巻かれて置いてある「縄」を手に取る。

「今宵もお好きにどうぞ。」

男は乙に差し出された縄を見つめながら固まったままだね。


「どうしたの?お嫌いなはずじゃないと思ったんだけど?」



「……………いや、そうじゃなくて……」

沈黙の後、男はやっと口を開いた。

「………今夜は僕を……縛ってほしいっ。」


「あら、そっち?もちろんいいわよ。」




本当にいろんな趣味の御仁がいるもんだねえ。

裸になった男は乙に縛るだけ縛られて苦し、いや嬉しいそうなことったら、



「……乙、君は何でも言うこと聞いてくれるんだね。」

「あら?娼妓ってそういうものでしょ。」

「いや、今まで買った妓はモノばかり強請ってきてさ。なまじっか僕の家はお金があるからかなあ。」


「まあ!どっちがお客なんだか?!

あんた、喉乾いたでしょ?こんなに汗かいちゃって。」

乙は手を叩いて人を呼んだが誰も来ない。


「もう!人が足りないのよね!稼いでやってるのに領はケチだから!

いいわ、私がお水持ってくるわ。」
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