第1章 松の巻
「乳?!」
「……そうだ!乳だ!お前は乳が出ると聞いたから買ってやったんだ。
――――早く出して見せろ!」
ガシャンと大きな音を立ててお大尽は立ち上がる。そしてその大きな肉付きのいい手が乙の乳房を鷲掴みにしようと伸ばされた。
やれやれ、本当に変わった性癖の者がいるもんたねえ〜
乙は最初面食らった表情(かお)をしていたが、すぐにすべてを悟った様に微笑んでお大尽のブクブクした手を両手で包み込んだ。
「…………っ!」
「せっかくですから「気分」出しましょうよ。」
何を思ったか乙はその辺にあった手巾を器用に三角に折ってお大尽の首に結びつけた。
「……な、何をするっ!」
「ああら、可愛い「よだれかけ」。」
「ば、馬鹿にしているのかっ!!」
手巾いや「よだれかけ」を剥ぎ取ろうとするお大尽の手はやんわり乙に捕らえられ引き寄せられた。
たわわな胸に顔を埋める様な形になり………これには好きモノのお大尽はもまんざらではないみたいだね。
「ご機嫌良くありましぇんねえ〜お大尽………いえ、小さい頃は何と呼ばれてました?」
乙は胸に抱いたお大尽の頭を優しく撫でながら訊く。
「……………楊……」
素直に答えるお大尽。
「楊ちゃんね、これから貴方はお大尽様でも旦那様でもなく只の「楊ちゃん」ね。好きなだけ甘えてくださいな。」
「………な、何を言っとる!」
乙はお大尽……「楊ちゃん」を抱き締める腕を強めた。
「楊ちゃん、まーだご機嫌悪いでちゅねえ〜お唄を唄ってあげましょうね。」
――――乙は「楊ちゃん」の背中をトントンと叩きながら子守唄のたぐいを唄い始めたよ。
決して通る声じゃないけど何て優しい響きだろうねえ。
おやおや、あんだけ虚勢を張ってたお大尽が乙の懐でまさに赤子の様にトロンとし始めたよ。
「……………まーま……」
「楊ちゃん、いいこ、いいこ。」
乙が静かに押し開いた右の乳房に、お大尽は無邪気に手を伸ばした。
キュッとつままれた乳首に白い乳が滲んだ。
お大尽は首をもたげてそれを一口、ペロリと舐め取ると満足気に微笑んでドサリと大きな躰を乙の膝に預け、そのままスヤスヤと眠ってしまった。