第1章 松の巻
への字に曲げられていた男の唇がわずかに上がり、眼光が鋭く光った。
「よし、買おう。」
後ろに控えていた付きの者に横柄に顎で指示すると明らかに多額の金子が領殿の手に渡った。
「さすがはお大尽様!」
ペコペコと頭を下げる領殿。
乙の脚の間に紙が貼られ、太鼓が打ち鳴らされた。
「初見世これにて完売―――――――!!」
お大尽が大きな体を揺すって階上の部屋に案内されていった。
すっかりご機嫌になった領殿が乙の脚の紐を解きながら言う。
「今日一番の高値だよ。あんたツイてるね。
しっかり勤めな!」
台から外された乙はもう一度念入りに湯浴みさせられ、化粧を直しキッチリと衣裳を着付けられた。
女中に手を引かれてお大尽の待つ部屋へと向かう乙。
「あの御方はねえ、この辺りで一番の富豪だよ。一代で財を成した腕利きの商人でここの上客なんだから失礼をしたら沼にぶちこまれるだけじゃ済まないからね!わかってるね!」
女中に念を押されているね。
「――――お大尽様、お買い上げ品です。」
廓の最上級の部屋でお大尽は酒器を傾けていた。
女中に促されて乙は作法どおりの礼をする。
「それではごゆるりと。」
女中は最後に「分かってるね!」と乙の耳元で囁き部屋を出ていった。
お大尽は何にも応えず黙ってお酒を飲んでいるね。まだまだ不機嫌らしいね。
「お注ぎします。」
乙が歩み寄って酒器を手に取る。
……パシッ!
お大尽の大きな手がそれを払った。
「!?」
「酒はいい!酒より乳だ!」