第1章 松の巻
「「未通女」「未通女」て何をそんなにこだわるのよっ!」
領殿はフッと笑った。
「あんた、なーんも分かっちゃいないねえ。
こんなとこに女を買いにくる様な輩(やから)はだいたいが生娘好きさ。何にも染まってなけりゃ自分の好きに出来るからね。」
――――遠くから悲鳴が聞こえてくる。買われた「未通女」たちが次々と破瓜されているのだ。
領殿はそれに構わず続ける。
「中には「未通女」以外は受け付けない性質(たち)の奴もいるからね。」
ここで乙の表情(かお)が曇ったね。さっきまで領殿を睨みつけていたあの強気な瞳(め)はどこに行ってしまったのか……
「何だ?乙、そのしみったれた顔は。ますます売れなくなるじゃないか。
そうか、沼に放り込まれるのが怖いか?
安心しな!いくらなんでも生身の娘を沈めたりはしないよ。商売だからね。赤字にはなるが格下の廓に買い上げてもらうよ。」
ここ「龍宮楼」はこの国の遊郭の中でも上格の方だね。何せ城の役人やはたまた皇子様方がおしのびでやって来るほどだ。
「………売れなかったら…まあいいところで「夜鷹」だね。」
夜鷹―――――いわゆる最下層の「自由営業」の遊女だ。買う方もまたどん底だから嫌な病気を伝染されたりしてあらかた寿命は長くない。
でも心配ない。私が見込んだ娘だ。こういった娘は「運」にも恵まれているもんだ。
ほおら、今夜訪れた誰よりも豪華な車が廓に寄せられたよ!
「旦那様、お足元お気を付けて。」
何人もいる「お付き」の者の一人に手を取られて、最上級品の柔らかい鹿革の靴を履いた足が廓の前に降り立った。
いそいそと領殿が出迎える。
「これはこれはお大尽様、お待ちしておりましたよお〜。」
「お大尽」と呼ばれた男は無言でのしのしと格子の中に進む。
これは相当な上客だね。明らかに不機嫌そうだけど。
うやうやしく差し出された単眼鏡をひったくる様にして受け取った。
「――――商談が長引いて遅くなった。
もう「カス」しか残っていないじゃないか。」
お大尽は機械的に拡げている乙のヒダの中を一瞥するとフンッと鼻を鳴らした。
領殿が歩み寄る。
「ご覧のとおりの娘ですがね、実はこの娘――――」
顔を寄せて何某かを囁く。