第1章 松の巻
歓声が湧いた。
既に廓の前の通りは人でいっぱいさ。
格子越しとはいえ、若い生娘の痴態が見れるときちゃあ人は集まるさね。
「お祝い」の日でもあるからね、「祝餅」が振舞われるからそれを目当てに何も知らない子供たちも集まってきているよ。
だけど今夜娘たちを「買上げ」てくれる旦那衆はこの人だかりにはいない。
既に豪華な車が何台か乗りつけられていて、三々五々立派な身なりの旦那衆が悠然と降りてきたよ。
入口で恭しく礼をするいつもよりいい着物に着替えてきた領殿に相当量の金子が渡されているよ。
そんな旦那衆じゃないと格子の中には入れない。
「御披露目台」の前に案内された旦那衆は手渡された単眼鏡で娘たちの乳首の先から拡げられたヒダの奥まで丹念に吟味する。
気に入った娘がいたら領殿と値段の交渉に入る。
目の前で自分の商談が始められるんだよ。
お、一人目の「買上げ」が決まったよ。
「○○様お買い上げ―――――!」
大声で呼ばれて太鼓が掻き鳴らされると、買上げられた娘の下っ腹に旦那の名前が書かれた短冊が貼り付けられる。
ヒラヒラと自分の名前が生娘の脚の間ではためくのを見て旦那は得意気だね。
買い物を済ませた旦那は階上(うえ)の部屋に通され、酒肴を振舞われる。
頃合いを見て買上げられた娘が台から外されて「配達」されるという段取りだ。
その後は言わなくても分かるね。
「お買い上げーー!」
次々に短冊が貼られていくね。
乙は見映えが良くないけどたわわな乳房に目を止めた何人かの旦那が単眼鏡を手に近づいてきたけど、アソコを覗き込むと皆舌打ちして離れてしまう。
短冊を貼られた最後の娘が運ばれていき、乙だけがぽつりと残された。
夜もだいぶ更けて格子の外の人垣もほとんどなくなっていた。通りすがりに覗き込まれて指を挿される。「売れ残り」なんて声が聞こえるねえ。
深い溜息をつきながら領殿がやって来たよ。
領殿は水を口に含むとプッと乙の脚の間に吹き付けた。
「すっかり乾いちまってこれじゃますます売れないよ!
女将はなんでこんな「使い古し」買ったんだろうねえ、大赤字じゃないか。」
「「使い古し」とは酷い!」
お、反論してきたね。
「「初見世」に来る旦那衆はねえ、皆「未通女(おぼこ)」目当てなんだよ!」