第1章 松の巻
名前を呼ばれた娘たちは女将の前に引っ張り出された。最後に呼ばれたのは――――
「………そして乙!お前もだ。」
引っ張りだされた数人の娘たちは女将の後をついて階上(うえ)に上げられた。
連れて来られた部屋は階上なので日は入るものの、狭さや雰囲気は地下とそう変わらなかった。
「今日からお前たちは『行儀見習い』だ。」
女将が告げる。
女将によって見極められた娘たちは「見世出し」に向けて準備を始めるのだ。
お客の前で粗相がない様、女中たちが徹底的に行儀や踊りや唄といった芸事を叩き込む。
廓の女中はだいたいが引退した娼妓だ。
酸いも甘いも噛み分けた顔だねえ。
廓(ここ)に来て数日という異例の速さで地下から引き上げられた乙は流石、行儀や芸事もずば抜けて良く出来て。
一体何処から来たのかねえ。
日の佳い日を選んで年に数回、この廓では『初見世御披露目』が行われる。
前もって女将と領殿が『行儀見習い』の中から仕上がった娘を選んでおく。
今回選ばれたのは七人。
―――――乙も入っているね。
選ばれた七人の娘は翌朝早くに叩き起こされる。いきなりだけど、前に知らされると変な気起こす娘もいるからね。
起こされた娘たちは風呂場に連れて行かれ、廓に入った時の様にゴシゴシと全身を洗われた。
今回は人夫たちは「いたずら」をすることもなく、淡々と仕事をしている。
もはや仕込みの済んだ大事な『商品』だからね。
洗われた娘たちは今回は逆に『検分』の部屋に回された。
領殿がいた。
「お前たちをお買い上げくださる旦那様方によーく見てもらうためにね、股の間の邪魔なモノをキレイにするよ。」
剃刀をちらつかせる領殿。
「一人ずつこの椅子に座りな。」
一番端にいた娘が椅子に上げられ、容赦なく領殿は手に持った剃刀でざくざくと生えたての恥毛を剃り上げていく。
ぽろぽろと涙を溢す娘。無理もないねえ。
「ピーピー泣くのはここまでだよ!客の前で泣き喚くやつは沼に放り込むよ!」
『底なし沼』のウワサはどうやら本当だったみたいだねえ。
「時間がない。次の娘からは自分である程度切り揃えておきな!」
一竿の鋏か裸の娘たちの足元に滑り投げられた。
ためらいもなくそれを手に取る乙。