【金カ夢】夢の中で……。【Golden Kamuy】
第1章 プロローグ
話は逸れてしまったが、ここで身寄りのない私を看病してくださった女将さん夫婦に、少しでも何か手伝いができないかと聞くと、食堂の厨房で働かせてもらう事になった。
自分の帰るべき場所があるかどうかは分からないが、もしもトリップと言われるようなことが起こっているのならば、きっと帰る道もあるはずだ。
女将には、お世話になって起きながらも、しっかりと『時期が来れば、旅に出たい』と、どこに行くあてもないのだが、有耶無耶にしながら断りを入れてた。
働かせてもらっておいて言うことではないのかもしれないが、残念ながら明治時代の厨房は現代のものとだいぶ勝手が違い、見たことの無いものが多かった。
調理師免許が明治時代にあるのかどうかは分からないが、野菜の切込みや皿洗い等の仕事は出来るし、一応ユメコは調理師免許を持っているので、調理関係では無免許でもないし、少しでもお世話になった恩を返せればと、出来る範囲で黙々と言われた仕事をこなしていった。
ここでユメコがお世話になりはじめ、1年ほどの歳月が過ぎた。
住む場所を探したりもしたのだが、なかなかいい物件も見当たらず、未だに女将夫婦の自宅でお世話になっている。
食事処の厨房で板前の旦那さんが味付け、盛りつけをしていくのを横目に、ユメコは邪魔にならないよう盗み見しながらも、仕込み作業を行っていた。
勿論、それ以外でも手が空くと雑用をこなす。
他の板前も居るのだが、旦那さんの作るの料理は優しい味付けの和食で、賄いで食べる時は至福の時間だ。
ユメコもある程度調理ができるなら作ってみろと、手伝い始めたばかりの頃に無口な旦那さんに言われ、女将さんと旦那さんに拙い料理を出したら、九州と北海道では味付けが違うようで、2人は美味しいと言ってくれたし、九州の料理を出すのも北海道である此処では珍しく、食堂で出してもいいんじゃないかと提案してくださった。
そのおかげで、旦那さん達には遠く及ばないながらも
今では月に1~2度程、定食のおかずとして数品、出させてもらえることになった。
───余談だが、女将に言われて知った話で明治時代、「蕎麦屋」という食事処では、蕎麦とは別に、奥の部屋で女性を買うお店があったりするそうなので、拾われた先がこのお店で本当に良かったと思ったこともあった。