【金カ夢】夢の中で……。【Golden Kamuy】
第3章 杉元、第七師団との出会い
『(うーん、今日はクチャ(仮小屋)を借りようかな…。)』
ユメコが街を出る頃にはだいぶ日が傾きはじめていた。
コタンへと向かうには遅い時間だし、この雪山だ。
日中でも足取りが重いのだ、暗くなると視界が悪くなり慣れない雪山は更に危険だろう。
以前教えてもらったクチャがあったであろう方向に向けて歩み始めた。
___ターーン
川辺を歩いていると、ユメコの耳に銃声のようなものが聞こえたような気がしたが、どこかの猟師が獲物を狙った音かもしれない。
特に気にすることも無く、そのまま歩き続けた。
クチャへと歩みを進めていると、大きな何かが川に浮かんでいるのが見える。
よくよく目を凝らすと、川から流れてくるソレは、生き物のようにも見える。
だいぶ近くまで流れてくると、ソレが人であると判断できた。
ユメコは急いで荷物を水で濡れない場所におくと、着ていた上着を脱ぎ、胸に巻いていたサラシを外した。
自分の頬をバチッと音を立てて叩き、『っ…よし!』と、気合を入れると氷のように冷たい川に足を入れた。
『……っ、大丈夫ですか?!』
氷水のような川の冷たさの中、どうにか水を吸い重くなった人間を引き上げる。
流れてきた人物は軍服に身を包んでいたが、顔がボコボコに腫れ上がりパンパンになっていた。
低体温症になっているのか顔色は真っ青だ。
土左衛門かもしれないという恐怖心もあったが、辛うじて怪我人の胸元が上下に動いているのを見ると、急いで脱いでいた自身の服を軽く着込みユメコは荷物からマッチを取り出す。
アシㇼパや猟師から教わった知識を元に火をつけた。
この軍人は上の崖から足を滑らせて落ちてきたのか、腕も折れているようだ。
意識がない男にどうにか声をかけながら、彼を温めるために軍服へと手をかける。
骨折しているであろう腕は動かす勇気がなかったので、申し訳ないと思いつつも、手持ちの短刀で怪我に注意を払いながら軍服を切らせてもらった。
男の上半身を脱がせると、持っていた布で身体を拭き、手持ちの清潔な服などで、少しでもこの男の身体を温めるために包み込んだ。
骨折している部分には、男の様子を見ながら、やったことも無い添え木を自分の思いつく限り丁寧に、しかし、しっかりとやらせてもらった。