【降谷零】SPARK × PUNK【名探偵コナン】
第4章 「元整備士」×「マスタングGT500」
見つからないよう裏道を通り名がら雨の降る夜道を走った。
裸足で飛び出してきたせいで足も痛いし、それに何より寒い。
手足が段々とかじかんで力が入らなくなる。
早くしないと、先に私の方が限界が来る。
拳銃を咥えていた口元から短く息を繰り返す。お店を出た直後には見えなかった自分の白い息がさらに焦燥感を奮い立たせた。
裏道から顔だけを出して周りを確認する。大通りへ繋がる橋。人はいない。街灯だけが辺りを照らしていた。
するとガチン…ッ‼と歯に衝撃が走る。思わず口元に加えてあった拳銃を話し、口元を押さえながらも裏道へと再び身を引いた。
雨音だけが響く夜道に、物騒な銃声と無機質な音が響いた。
いる。近くに狙撃手が。
ドクドクと脈が速くなる。雨音に紛れ、微かに革靴の音がした。
「そこにいるんだろ? アリス」
女の声がした。カチャリと、リロードする音を聞くにさっき裏道から顔を出した際に狙撃した狙撃手だ。
「おとなしくしてれば、痛い目は合わないよ」
段々と近づいて来る声と足音。
……違う。もう一人、もう一人いる。
息を殺しながら一歩身を引いて振り返った途端、ドンと胸元に勢いよく押し付けられたのは黒い塊。
ゆっくりと、目線を上げる。
下から黒の革靴、黒に身を覆いハットからは銀の長髪が伸びている。
自分に嫌気がさした。
何が警察、刑事、公安。今やただ彼らの足手まといの被害者だ。
ノンキャリアで階級を上がって来た罰が今になって裏目に出たと言っても過言ではない。だって私は他の周りの人とは違って数ヶ月前はただの整備士だったんだから。
周りは警視庁に名を残し、実績を残しあがって来た凄腕の幹部だらけ、私の入る隙なんてなかった。私が唯一その隙間を埋めれるのはただがむしゃらにこの国のために働くしかなかった。
その結果がこれか。情けない。
降谷くんが知ったらなんて言うか。想像は疾うに出来ている。
ならいっそ、顔も性別も、誰かも分からなくなるくらい、ぐちゃぐちゃにして殺してくれ。
そうしないと―――。
この手の震えが、もはや暑さのせいか、恐怖かも分からなくなってくる。
「今から、俺の指示に従え。」
「…………従わなかったら?」
「返事は〝はい〟か〝いいえ〟だ。それ以外は口にするな」
男はその深緑の眼を私に向けながら耳に残るような低い声でそう言った。