【降谷零】SPARK × PUNK【名探偵コナン】
第4章 「元整備士」×「マスタングGT500」
「お兄さん、この店初めてですよね? 見かけない顔なので」
「ああ、今日が初めてだな」
「私も初回フリーなしで指名なんて初めてです。もしかしてタイプでした?」
「そんなところだな」
「それは嬉しいです。……今日は水以外になにか飲まれすか?」
「ではアルマンドのレッドを」
お冷を作りながらそんな会話をしているとまるで居酒屋のような軽い口調で高級シャンパンの名前を口にする男性に私は思わずブッ、と吹き出してしまった。
「あ、アルマンド?」
「なんだ、嬉しくないのか?」
「い、いえ! 嬉しいです! お願いしまーす」
そうだった、私は今現役のキャバ嬢だった。
アルマンドを貰ったことがないわけではないが、感覚で言うならまるで一目惚れされて突然プロポーズされましたみたいなノリで高級シャンパンが入るので思わず素の反応が出てしまった。これこそキャバ嬢にあるまじき行為だ。
手を挙げて黒服さんを呼べば、豪華な箱の中に入ったアルマンドのレッドの栓が抜かれ、お店はより一層時間の流れに乗るかのように盛り上がりを見せた。
グラスに注いで一緒に乾杯をすれば私はそれを一気に飲み干した。
半開きに空いた口から小さく息を吐いた。……相変わらずクソまずい。一ヶ月たった今でも口に含んだ瞬間、生き物のように溢れ出そうになる。
この潜入捜査で唯一の難点は私のアルコールの飲めなさの問題だ。一時は慣れるかなと甘ったるいことを考えていたら私の舌は慣れるどころか日が進むにつれ拒否反応はエスカレートする一方。もはや標的を見つけるのが先か私の舌がつぶれるのが先かのどちらかだ。
それを見たキャスケット帽を被った男性が「いい飲みっぷりだな」と褒めてくれる。一気に流し込まないと私の身が持たない。その言葉に私は微笑んだ。
「ええ、よく言われます。お兄さんはお酒お好きなんですか?」
「ああ、バーボンとスコッチが特に」
聞いた途端、思わず口角が引くつきそうになるのを私はぐっとこらえた。絶対度数やばい酒だ。名前でわかる。