【降谷零】SPARK × PUNK【名探偵コナン】
第1章 「整備士」×「RX-7」
十八歳の時、父と母は結婚記念の旅行から帰る途中、高速道路上の交通事故で亡くなった。高校卒業後、私がすぐに警察学校に入学した直後のことだった。
授業中に突然教官に呼び出されそう知らされた。詳しく言えば交通事故によって車のガソリンに火が引火したのが原因の焼死だと言っていた。教官がすぐに車を出して搬送された病院へ送ると言ってくれたが、私は静かに首を横に振った。
あの日のことは、嫌でも思い出してしまう。一ミリたりとも忘れた日なんてなかった。もう二度と使うこともない余分な二人分の食器や四人掛けのダイニングテーブルに衣服、期限切れのパスポート、なにもかもすべてが捨てれぬままいつまでも眠っている。
入学式は二人とも私の隣にいたのに、もうこの世にすらいないなんて――夢でも見ているようだった。
そもそも江戸時代から代々受け継がれた一家の整備施設は父の代で終わりになるはずだった。
父は跡継ぎにこだわることはなく、俺は好きやってるだけだから気にするな、お前がなりたいものになればいいと言ってくれた。
中学二年生の頃、警察官になると言った時の父と母の顔を今でも覚えている。すごく嬉しそうな顔で『頑張れ』と応援してくれたあの笑顔が今でも脳裏に焼き付いて離れない。
教官から落ち着くまで休めと言い渡された長期休み、私はお手洗いと食堂へ行く以外は寮にこもった。
心のどこか大切にしまっておいた部分を無理やりえぐり出され捨てられて、埋めるものもなくぽっかりと開いたまま。少しでも考え込んだら、あの時のいろんな感情が溢れて止まらなくなる。そんな状態がずっと続いた。
それでも、私の警察官になると言う思いだけはけして折れなかった。退学なんて選択なんかこれっぽっちもなく、日が経てば経つにつれてこんなところでへばっている暇なんてないと気づかされた。
私はあの時決めたんだ。私には、まだ守らなきゃいけないものが残っている。なんなら、どうせなら、いっそのこと本気でやってやると、そう決めた。
知らせを受けて三日後、教官に通常通り授業を受けさせてくださいと伝えると諸々の手続きを済ませ一週間後にはいつも通り復帰した。