【降谷零】SPARK × PUNK【名探偵コナン】
第2章 「公安警察」×「整備士」
髪をかき分けそんなことを思いながらもう一度彼女に目をやると、どうやら誤って水の入ったバケツを倒してしまったようだ。脈を図るために剥ぎ取った皮のグローブが気付けば中まで湿っている。
身に着けていたもう片方の皮手袋を外し、傷まないよう近くにあったクリップに挟み吊るしておく。
メールが届いた時間的をもう送った頃には修理は終わっていたのだろう。なるべく最短で渡せるようその間を有効活用し、最後にいつものように付いたホコリや汚れを綺麗に磨こうとして途中で力尽きたんだ。
まさか血を流して倒れていたと勘違いして慌てて駆け寄ったら、血液だと思っていたモノは実はただの水だったと宮下が知ったら、きっと一生ネタにされ弱みを握られるに違いない。
警察学校の頃もそうだった。常に五分前に行動し、締切の課題も二日前には出すようなやつだ。以前も一ヶ月かかると言い張る宮下に俺が『一週間』と言うとキレながら『一ヶ月! これは絶対譲れない!』と言って追い返えされたが結局一週間後に連絡が来た。その時はガレージと自宅の明かりは付いており、ガレージのシャッターも空いていたので勝手に持っていけということなんだろう。
〝二ヶ月かかる修理を二十日間で終わらせる。〟
今回は自分でも無理を言っていたのは承知だった。ある意味、賭けでもあった。流石の彼女でもあの時は俺をまるで人ならざるものを見るかのような険しい顔と鋭い目で睨み付けていた。俺が決める前にすでに彼女の顔全体がやりたくないと本音が漏れている。
しかし以前よりも莫大に膨らんだスピード料金。三十万が最大料金と以前本人も言っていた。おそらくわざと俺に分かるように大金に設定したのだろう。『無理』と言わんばかりの分かりやすい彼女の意地悪な条件に俺は承諾した。お正直金で解決するなら話は早い。
〝二十日間〟それだけは譲る訳にはいかなかったからだ。
同時にこれはお互いの心理戦でもあった。分かりやすい引っ掛け、無意味に積まれた莫大なお金、そして二十日間という今までにない程の無理なお願い。
詳細を聞かないのは彼女なりの配慮だろう。元は同期でもあくまで公安と一般人の関係。同じ道を歩んでいた彼女だからこそこの線引きの重要性は理解しているだろう。