【降谷零】SPARK × PUNK【名探偵コナン】
第6章 「元整備士」×「コルベットC7」
それに気づいたと同時に、吹っ切れたように風見さんに抱えられていた少年が泣き出した。風見さんが慌てて少年をあやす。
何もかも、一瞬の出来事だった。
その後、男の子のお母さんが泣きながらお礼をしにやってきて、その数分後騒ぎを聞きつけたパトカー十数台、マスコミに噂を聞きつけた人々が押し寄せ、しばらくして、見覚えのある白のスポーツカーもやって来た。
周囲の防犯カメラ画像の収集、交通整備、負傷者の確認、休む暇なく現場の処置を行い、気づけばあたりはすっかり暗くなっていた。
「痛くないですか?」
「最悪です、とっても痛いです」
「痛くなかったら人間じゃないだろう」
未だ現場近く、暖房の入った降谷くんの愛車、RX−7の車内でそんな単調な会話が広がった。
後部座席に風見さんと私、真ん中に置いてあるビニール袋には消毒液と絆創膏に湿布とワセリン。いずれも先程近くの薬局で買ってきたものだ。
消毒してワセリンを塗った傷口に同じように優しい手つきで絆創膏を貼ってくれる風見さん。
「肩はどこらへんを?」
「右肩の特に後ろの辺が…」
「受け身は取らなかったのか」
「しましたよ。けどすごく力が強かったんです。まるで骨折どころか粉砕骨折させて病院送りにする気満々なくらいね」
少し大きめの絆創膏を貼られた不恰好な手の甲を眺めながらそういった。次に肩を出そうと上着をワイシャツを脱ごうとすれば風見さんが目を泳がし始めるので「大丈夫です。タンクトップ着てるので」とついでに見られても大丈夫なやつです。と、付け加える。
ワイシャツを脱いで、自身の右肩を見て見ればただでさえ肌を出さない肩周りの周りは赤く青く変色していた。
「なら、おかしいな。僕だったら車に轢かせる。その方が手っ取り早い」
「子どもがいたせいなのかもしれません。彼、子どもが好きなんです」
「でもそれだけの理由でですか?」
風見さんはビニール袋から湿布の入った箱を開けながら言う。
そう言われればそれもそうだ。
言い方を変えれば、他人から見たらたかが子ども一人だ。でも彼にとっては−−。
「本当は……優しい人なの。人を殺したなんて、私も未だ信じきれない」
私は視線を湿布の箱から落とした。その言葉から、しばらく車内に沈黙が続いた。そんな中風見さんの手によってひんやりと冷たい湿布が右肩に一枚、二枚と貼られていく。