第9章 忘れたことなんて
___7年前
私が所属する警視庁刑事部捜査第一課に、送り主不明の謎のFAXが送られてきた。
内容は、都内にある二つの高級マンションに爆弾をしかけたというもの。要求は10億円で、住人が1人でも避難したら即、爆破するという条件であった。
すぐさま警視庁各局に連絡が周り、爆発物処理班が出動した。
新人である私は、犯人を追う捜一の先輩方とは別行動で、付近の住民の避難や交通整備の任に当たるため、同じく現場に急行した。
そして、FAXが送られてきてから2時間弱が経った今、私が待機している現場の爆弾に少し手間取り、警視庁は仕方なく犯人の要求を飲むこととなった。
その後、起爆装置のタイマーは爆弾犯のリモコンによって止められ、住人は全て避難が完了した。
「第1現場の爆弾が無事解除されたそうだ。そちらの機動隊もこっちに向かってきているらしい」
目暮警部が待機中の我々にそう伝えた。
報告によると、解除は松田が担当したらしい。
配属されて間も無いにもかかわらず、その冷静で迅速な対応に周りは驚いている様子だ。
そりゃ、解体しか能がないうちの同期ですもの。
爆弾の解除なんて、3分あればやってのけるだろうな。
「こっちのタイマーも既に止まってるらしいですし、案外すぐに済みそうですね」
なんだって、こっちの現場は萩が対応している。
松田に負けず劣らずの器用さを持っているあいつなら、パパっと解除しちゃうだろう。
「油断はならんぞ。住民の避難が完了しているとはいえ、テロでは何が起こるか分からない。
常に危険は隣に潜んでいると思うんだ」
そう言って目暮警部に諭される。
警察学校を卒業して1年経たないうちにこんな大規模な爆弾テロが起こるとは、引きが良いのか悪いのか。
「にしても、10億円が欲しいがためにこんな大規模な爆弾テロを起こすなんて、犯人は一体何を考えてるんでしょう」
「犯罪を犯す人間の気持ちは、我々には一生理解出来んよ」
「それもそうですね」
目暮警部の言う通りだ。
犯罪者の思考なんて理解しようとすら思わない。
にしても、なんだかこのままでは終わらない気がする。
なんというか、変な胸騒ぎというか…。
でもきっとこれは、私の現場での経験が浅いせいだ。
犯人の要求を飲んだ今、危険なことは起こらないはずだし。