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【名探偵コナン】sangría

第43章 消失



「もしかして、元気ないですか?」

「い、いえ……」


少しぎこちない笑顔を貼りつけて、梓さんは「1800円です」と告げた。
やっぱり、余計な気を回しすぎただろうか。
本人が話したくないのであれば、これ以上詮索するべきではない。
私は2000円を取り出し、トレーの上に置いた。


「お釣りの200円です」


差し出された小銭を受け取ろうと、何気なく手をのばす。
その瞬間、きゅっと手を握られた。


「……今日って、安室さんに会いに来ましたか?」


不意を突かれて、思わず息が止まる。
梓さんの顔にいつもの笑みはなく、そこには心配そうで、どこか悲しげな表情があった。


「いえ、たまたま近くを通ったので普通にお昼ご飯を食べようと思って」

「あ、そ、そうですよね!」


はっとしたように手が離され、200円がそのまま私の手のひらに乗せられた。


「……でも、」


小銭を財布に仕舞いながら、つい本音が漏れる。


「会えたらいいなとは、思ってました」


言ってから、しまったと思った。
何を言ってるんだ私は、と顔を上げた時、梓さんが今にも泣き出しそうな表情でこちらを見つめていた。


「梓さん……?」

「え!あ、す、すみません……」


慌てたように視線を逸らし、俯く梓さん。
その様子に、胸の奥がざわつく。
やっぱり、何かあったんじゃないだろうか。
梓さんは俯きながら少し息を吐いて、決心したように「……実は」と顔を上げたその時、


「梓ちゃーん!」


テーブル席から、マダムたちの明るい声が飛んできた。
どうやら追加注文らしい。


「……すみません」


一瞬だけこちらを見て、梓さんは小さく首を振る。


「やっぱり、何でもないです」


そう言って無理に笑顔を作ると、「またお待ちしてますね!」とだけ言い残し、足早に注文を取りに向かっていった。
取り残されたまま、私は会計台の前でしばらく立ち尽くす。

カランカランと鳴るベルの音を背に、店を出た。
雲ひとつない快晴の空の下、肌寒い風が頬を撫でる。
歩きながら、ふと梓さんの表情が頭をよぎった。
きっと気にしすぎだと自分に言い聞かせ、近くのスーパーで日用品の買い出しをする。
大荷物を抱えて帰路についたが、胸の奥に残る小さな違和感は最後まで消えなかった。
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