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【名探偵コナン】sangría

第43章 消失



帰宅後、買った食料品や日用品を片付けていく。
夕飯の支度にはまだ早いので、先程買ったばかりのカフェインレスのインスタントコーヒーをマグカップに入れてお湯を注いだ。
立ち上る柔らかな香りに肩の力が抜ける。
湯気が立つそれを片手にテレビを付けて、ニュースをぼーっと眺めた。

ふと、視界の端に例のハイヒールが映り込む。
相変わらず存在を主張するそれを、徐に手に取った。汚れを指で擦ると、スパンコールのザラつきを感じる。
私がこんなにヒールの高い靴を履いて、よくもまあ足をくじかなかったものだ。

次に、その傍らに畳んでおいておいたドレスを広げる。
元々大胆なスリットが入ったデザインらしいが、その切れ込みはさらに無残に裂かれている。布地のほつれが生々しく、痛々しい。

最後に、ダイニングチェアに掛けておいたジャケットを手に取った。
明らかにメンズサイズのこれは、きっと誰かが貸してくれたものだろう。あられもない姿になった私を気遣ってくれた紳士にどうにかお返ししたいが、その人物が誰で、どこにいるのか、全く見当も付かない。
もっと何か手掛かりはないかと、半ば無意識のままジャケットを顔に近づけた。
そっと息を吸い込む。


この匂いは───そうだ、ゼロの匂いだ。

パーティー会場からの帰り道、力の入らない身体を抱き上げられたあの瞬間にふわりと鼻先をかすめた匂い。


……ゼロの、匂い…?


「っ……!」


瞬間、割れるような痛みがこめかみを貫き、視界がぐらりと歪んだ。手からジャケットが滑り落ちるのも構わずに両手で頭を押さえる。


「うっ、うぅ……」


膝が崩れ、その場にうずくまる。
鼓動が異様に早い。呼吸が浅く、胸がひゅうひゅうと鳴る。


『……ごめん…』


かすれた声。
振り返らない背中。
遠ざかっていく足音。


「まって……」


喉がひりつく。
声にならない。


「……っ、まって…!」


伸ばしたはずの手は、何も掴めずにただ空を切る。
冷たい床の感触が頬に触れた。
意識がだんだんと薄れていく。


「……おいて、いかないで…」


何かが頬を伝う感触を最後に、私は意識を手放した。
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