第43章 消失
ほどなくして、涼しげなグラスに注がれたアイスコーヒーが運ばれてくる。
小さなミルクソーサーも一緒に置かれて「今度は忘れてません!」なんて言われて、思わず笑みが零れた。
アイスコーヒーにミルクを落として、ストローでくるくる混ぜる。
だんだん広がっていく白を眺めていると、ふと数ヶ月前にここへ訪れた日のことを思い出した。
安室透と名乗るゼロに会いに行ったあの日以降、偶然にもゼロと顔を合わせる日が増えて、連絡先を教えてくれて、1か月前には海にだって連れていってもらった。
3年間音沙汰が無かったことが嘘みたいに、たった1か月会えないだけでもう顔が見たくなってる。
今日だって、期待してなかったと言ったら嘘になる。もちろん毎日いる訳じゃないのは分かってたけど、ポアロに入った瞬間にその姿が見えなかった時は少し、ほんの少しだけ落胆した。
……はぁ、欲張りになったもんだ。
「お待たせしました、カツカレーです!」
食欲をそそる香りとともに、皿が置かれた。
おすすめと言うだけあって、見た目からして手が込んでいるのが分かる。
1口食べれば程よい辛さとスパイスの香りが口に広がった。
うん、美味しい。
全くこの喫茶店はフードのクオリティが高いから侮れない。
美味しいカレーを頬張りながら、ふと考えた。
───もしこのまま、どんどん記憶をなくしていったらどうなるんだろう。
このカツカレーの美味しさも。
警察官として今までやってきた仕事も。
ゼロのことも、あいつらのことも。
全部全部忘れられたら───幸せだったりするのかな。
……なんて、なにセンチメンタルになってんだ。
平日の昼間に外食なんかしてるから、調子が狂ってるだけだ。
別に心配しなくたってすぐに思い出すだろうし、仕事にだって支障は出さない。
青柳はああいってくれたけど、きっと心配することなんてない。
「ご馳走様でした」
伝票を手に取り、お会計をお願いする。
「カツカレー、すっごく美味しかったです!」
「良かったです!マスターにも伝えておきますね」
そう言った梓さんの顔が、ほんの少しだけ曇ったように見えた。
いつも明るい彼女には珍しい。
余計なお世話かもしれないが、どうしても気になって、
「……どうかしました?」
そう声をかけると、梓さんは「えっ」と声を零して顔を上げた。