第43章 消失
「休日だし、普通にお買物にでも行ったんじゃない?」
「ドレスとハイヒールでですか?」
「デートだったとか」
「傷だらけで帰宅するデートって、それどんな相手ですか」
考えあぐねた青柳はうーん、と低く唸った。
「本当に何も覚えてないんですか?」
「何回言わせるのよ」
だから言ったのに。どうしてこうなったかなんて、私が一番知りたいんだって。
「考えても答えは出なさそうだし、一先ず今日は帰りましょ。明日もまた仕事なんだから」
「何言ってるんですか。さんは明日休んでください」
「え、なんで?どこも悪くないのに?」
「どこが悪くないって?」
青柳が呆れたように息を吐いた。
「病院に行ってちゃんと診てもらってきてください。今のあなたの状況はどう考えても異常ですから」
「なにそれ。酷い言い方」
口を尖らせていじけた真似をしながらデスクを片付ける。
病院に寄ってから出勤したら何時になるだろう、この調子じゃ明日も残業かななんて考えていると青柳が神妙に名前を呼んだ。
「まさか、午後から出勤する気でいませんよね」
「いや、お昼前には登庁出来ると思う」
青柳はまた大きく溜息を吐き、ついでに頭を抱えだした。
「仕事人間だとは思ってましたけど……」
「大袈裟なんだって。さっきも言ったけど、どうせ放っておいてもいつかは思い出すわよ」
そう言ってカバンを持ち上げた瞬間、その手を掴まれた。
「……本当に、お願いですから、自分をもっと大事にしてください」
顔を上げると、怒っているで、どこか悲しそうな青柳の顔があった。
「心配なんですよ、あなたが。もし何か取返しのつかないことになったらと思うと、怖くて仕方ない」
そう言うと、青柳は私の手を引いて歩き出した。
明かりの消えたフロアに二つの足音だけが響く。
「……自分を蔑ろにするってことは、あなたを思う周りの人間を傷つけることになるってこと、いい加減気付いてください」
助手席に座らされ、青柳の運転で帰路に着いた。
運転してくれている彼の顔は見ることができず、窓の外を通り過ぎる街頭に目を向ける。
ヘッドレストに頭を預けると、少し頭が痛んだ。