第43章 消失
これは、どうやらここ1週間の記憶だけがすっぽり抜けているらしい。
そんな奇怪なことあるか?と思いつつ、実際にその状況になってしまったのだからこればっかりは受け入れるしかない。
逆に、抜け落ちた記憶が一週間分だけでよかった。それだけなら仕事もどうにかなるかもしれない。
記憶喪失なんかで仕事を放るわけにはいかない。
いつもよりも時間は掛かってしまうが、それでもパソコンのデータと机上の資料を照らし合わせながら仕事に取り掛かった。
「はぁー……なんとか、今日の分は終わったぁ」
あっという間に日は暮れて、フロアの照明はほとんど落とされている。
ぽつんと光るのは私のデスクのライトだけだった。
腕をぐっと上に伸ばしながら、あ゛ぁーー、と大きく声を漏らす。
思ったよりも時間がかかってしまった。記憶がないって案外不便だなぁ、なんて考えていると「お疲れ様です」という声とともにコーヒーの香りがふわっと漂った。
気付けばデスクの上に紙コップが置かれている。
「え、青柳まだ残ってたの?」
「はい、さんを待ってました」
用事があるなら途中で声をかけてくれればよかったのに。随分と待たせてしまって申し訳ない。
「どうしたの、何かあった?」
「さん、何か隠してますよね」
逃がすまいとでもいうように鋭い視線を向けられる。
「朝からおかしいと思ったんです。有給の未報告やら無断早退は何度かありますけど、寝坊で遅刻なんて今まで一度もなかったじゃないですか」
確かに、いつもやりたい放題やってきたけど、連絡なしの遅刻は初めてだ。
……いや、社会人としてそれは当然のことなんだけど。
「担当してる仕事の内容は覚えてないみたいだし、大きい案件があったわけでもないのに残業してるし……今日一日ずっと様子がおかしいですよ」
さっさと白状しろ言わんばかりのこの男に、どう説明したものか。
別に隠したい訳では無いが、他人に分かりやすく伝えられるほど私も自分のこの状態を理解出来ていない。
「……実は、ここ一週間の記憶がすっぽり抜け落ちてるみたいなの」
素直にそう言い放つと、青柳は目を見開いた。