第43章 消失
「……あれ、生活安全課からの身元捜査依頼は?」
「生安から依頼なんて来てましたっけ?」
背後から部下に問いかけると、椅子をくるりと回してこちらを向き直った。
「ほら、日本語が通じないベトナム系の被疑者の」
「あ、それなら先週警部が担当してたやつですよね。もう終わらせたって言ってませんでした?」
「……終わらせた?」
そんな覚え、全くない。
確か、分かりやすいようデスクにまとめておいたはずだ。
だが、実際資料が見当たらない。
どういうことだ?
「さん、早かったですね」
「あ、青柳!」
刑事部から戻ってきた青柳が、手に資料を抱えて立っていた。
「お騒がせしました……」
「また事件に巻き込まれたんじゃないかって心配しましたよ」
「返す言葉もございません」
「まあ何はともあれご無事で何よりです。こっちは特に問題なかったですから」
そう言いながら、青柳は私に書類を差し出す。
「はい、これ。菊地さんが三課に頼んでた書類です」
「私が、三課に?いつ?」
「先週ですよ。急ぎだって言ってたので、ついでにもらってきました」
「……ありがとう」
「あと、二課から預かってる被疑者の件。もう検察に回していいですよね?」
「……ごめん、何の件?」
「アジア系の詐欺グループの件です」
……おかしい。
どれもこれも、まったく記憶にない。
担当していたはずの仕事は既に終わっているし、頼んだはずの仕事も、頼まれたはずの仕事も、全くもって覚えがない。
これは、一体何がどうなっているんだ。
「……さん、大丈夫ですか?」
青柳と部下から心配そうな視線を向けられる。
「……ええ、大丈夫!ごめんなさい、まだ寝ぼけてるのかも」
遅刻した分しっかり働かなきゃ!なんて笑って誤魔化しながら、自席に戻ってパソコンに向き合った。
さてと、どうしたものか。
青柳から渡された資料に目を通すが、隅から隅まで記憶にない。パソコン内のメールフォルダや、私が手を付けたであろう仕事の形跡を確認しても、何も思い出せない。
まるで知らない誰かが勝手に仕事進めてくれたような気分だ。
こりゃ参ったなと思ってさらに遡ると、2週間前の記録になった途端に見覚えのあるものばかりになった。そこから以前のものも全部記憶にある。