第43章 消失
プルルと鳴り続けるそれを恐る恐る手に取り、通話ボタンを押す。
「……はい」
『やっと出た……!さん、今どこにいますか!』
相手は青柳だった。
その声には焦燥が滲んでいる。
「家、だけど…」
『家!?大丈夫ですか!?』
「え?うん、まぁ……」
大丈夫かと聞かれると、かなり微妙だ。
身体中は擦り傷だらけ。だが一応生きてはいる。
私の声を聞いた青柳は、電話の向こうで安堵の息をついた。
『みんな心配してたんですよ。さんが無断欠勤だって大騒ぎです』
「……まって、今日って何曜?」
『月曜ですよ』
時計を見る。午前10時を少し過ぎたところ。
―――月曜の、平日の10時……?
「……仕事!!!」
やっばい、完全に忘れていた。
というか、完ッ全に寝坊だ。
「ごめん!!すぐ行く!!」
そう叫んで電話を切った。
とりあえず、まずはシャワーだ。こんな醜態で外へと出るわけにはいかない。
傷が痛いとか水でしみるだなんて言ってられない。血と煤と涙の跡を一気に洗い流し、勢いでスーツに袖を通す。
そしてそのまま玄関を飛び出した。
タイヤがキュルキュル鳴るのも構わず、霞ヶ関へと車を走らせる。
「はぁ、はぁ……ごめん、遅くなりました…」
本庁に到着したのは午前10時40分。
実に2時間10分の遅刻だ。
「あ、警部!おはようございます」
「おはよう。仕事、大丈夫だった?」
「はい、全然大丈夫でした!」
部下が笑顔で出迎えてくれた。周りの様子を見渡すに、どうやらみんな仕事に切羽詰まった状況ではなさそうだ。一先ずはよかった。
「警部のギリギリ出社はよくありますけど、遅刻は珍しいですね。寝坊ですか?」
「あー……まぁ、そんなとこ」
朝起きたら傷だらけのボロボロでした、なんて誰が言えよう。
実際、寝落ちして寝坊したのに変わりはない。
「青柳は?」
「先輩なら、今刑事部に書類を引き継ぎに行ってます」
「そう。ありがとう」
私は席に腰を下ろし、山積みの書類を前に深いため息をついた。
今日も今日とてやることは山ほどある。