第42章 決意と
玄関を通り過ぎ、寝室のベッドへ静かにを降ろす。
暗い部屋の中でいやに存在を主張するヒールに手をかけて、そっと脱がせてやった。
「……本当に、ごめんなさい」
悲しそうに、悔しそうに、そう言い放たれる。
「……いや、真結香は何も悪くない。全部僕のせいだ」
あの時、僕のそばにいた方が安全だと判断せずに、すぐにでも君を会場から遠ざけるべきだった。
もっと周りを警戒するべきだった。君が狙われる可能性を考慮するべきだった。
会場が暗闇に包まれた時、意地でも君の手を離さなければよかった。
僕がもっと早くにあの部屋を突き止めていれば、君がこんなに傷つけられることはなかったんだ。
……本当に、情けない。
「……ごめん」
そう言いながら、両手での耳を覆った。
僕の弱音が君に届かないように、強く。
「……に、伝えたいことがある。でも、これを君に伝えたら、今度こそ離れられなくなりそうだから。
こんなやり方でごめん。許してくれ」
何も聞こえない彼女は、困ったように僕を見つめ、「なに、言ってるの?」と唇を動かした。
その瞳をまっすぐに見つめたまま、僕は言葉を紡ぐ。
「この地球上の誰よりも、君が大切だ。傷つけたくない。誰にも傷つけさせたくない。きれいな君の顔も、身体も、心も、全部守りたい」
は尚も、「何言ってるのかわかんないよ」と訴える。
それでも、僕は語るのをやめない。
「の笑った顔が大好きだ。怒った顔も、悔しがる顔も、全部好きだ。俺の隣で、ただずっと無邪気にはしゃいで、楽しそうに笑っててほしい。
……泣いてる姿は見たくないけど、涙を流すなら俺のそばがいい。全部俺が掬うから。涙が止まるまで、ずっと抱きしめるから」
は耳を塞ぐ僕の手をどけようとするが、力が入らないその動きは、ただそっと添えるだけに終わる。
「……ただ生きていてくれたらそれでいいと、そう言えたらよかったのに。そこまで大人になれなかった。ずっとそばにいたいんだ。手離したくない。呼吸も、鼓動も、温もりも、全部俺のものにしたいって、思ってしまうんだ」
雨が降りしきるあの日から、君の全てが欲しくなってしまった。
また失ってしまう前に、僕の手中に収めたかった。