第42章 決意と
【降谷side】
真っ暗な夜道を、愛車がエンジン音を響かせながら駆け抜ける。
隣には、僕の大事な人が座っている。
腕はだらんと垂らして、頭はヘッドレストに預けて、窓の外を眺めながら力なく腰掛けている。
無惨に切り裂かれたドレスからは雪のように白い足が覗いていて、ナイフや注射器の傷が痛々しく散っていた。
彼女を傷つけたあの汚らしい男は、元は組織のメンバーだ。とは言っても、コードネームを持たない末端の工作員である。
とある任務を宛がわれた際、奴は見事にその任務に失敗。即不要と判断され、呆気なく組織から追放された。始末されなかったのは、それ程の価値があの男に無かったからだ。
その尻拭いを僕が請け負い、結果的に組織内での僕の序列が上がった。
そこから僕を逆恨みし、今回の計画を実行したのだろう。
彼女が狙われたのは、恐らくベルモットの口添えだ。
ベルモットが彼女に興味を示しているのは知っていた。だが、彼女に接触してあの場に呼び出し、あろう事か僕を炙り出す餌に差し出すほど入れ込んでいるとは思わなかった。
大方、彼女に僕の身が危ないとでも吹き込んだのだろう。
実際、命を狙われていたのは事実だが、あれ程の人間なら相手にもならない。
ベルモットは、それを分かった上でこんな悪戯を仕掛けたんだ。
僕の見立てが悪かった。
彼女をこんな事に巻き込んでしまったのは、完全に僕のミスだ。
あまりの不甲斐なさに、思わずハンドルを握る手に力が入る。
の自宅に無事到着し、助手席のドアを開けた。
「……どうだ、動けるか?」
そう問うと、垂らしていた手をゆっくりと持ち上げて手のひらをグーパーしながら「さっきよりはマシになった」と微笑む。自力で降りようとしたところで、体制を崩して思いっきりよろけた。
そんなの体を咄嗟に支える。
そのまま横抱きにすると、消え入るような声で「ごめん」と聞こえた。
は何も悪くない。悪くないんだよ。
悪いのは、全部僕だ。