第42章 決意と
真っ暗な夜道を、独特のエンジン音を響かせながら駆け抜ける。
数時間ほど時間をかけて、やがて車は私の家の前に停まった。
エンジンが止まり、深い静寂が辺りを包む。
「……どうだ?動けるか?」
助手席のドアを開けたゼロが、穏やかな声でそう問いかけてくる。
私はうっすらと笑って、両手をゆっくり持ち上げてみせた。
「うん、さっきよりはマシになった」
半日という効果時間だけに、薬が抜け始めるのも大分早いらしい。
これなら…と自力で降りようとしたその瞬間、
「あっ……!」
足に力が入らずふらりと体が傾いだ。
崩れ落ちそうになった身体を、ゼロの腕がすぐに支えてくれる。
「無理するな。まだ、思うように動けないんだろ」
「………ごめん」
か細く謝る私に、ゼロは何も言わなかった。
ただ静かに、そして迷いなく、私の身体を再び横抱きにする。
歩くたびに揺れる、少し乱れた前髪。
その横顔をそっと見上げて、そして、目を伏せた。
心臓の音が、ゼロの胸の鼓動と重なって、少しだけ落ち着いた気がした。
玄関の鍵を開けて、彼は私を抱いたまま家の中へ入る。
寝室のベッドの縁にそっと私を降ろすと、目の前に跪き、私の足元に手を伸ばした。
煌びやかなパンプスが、片方ずつ脱がされていく。
「……本当に、ごめんなさい」
ゼロが無事だった。それだけで、もう十分だ。
だが、あまりに私が足手まといすぎた。靴を脱ぐことさえ、自力では出来ない。
……本当に、情けない。
「……いや、は何も悪くない。全部僕のせいだ」
そう言いながら、彼は私の頬に手を添える。そして、優しく、小さく「……ごめん」と零した。
そのまま両手が私の耳を塞ぐ。強く、確かに。
「……え…」
突然、音が消えた。
何も聞こえない。
何が起きたのか分からなくて、私はゼロを見つめる。
ゼロは立ち上がりながら、私を見つめ返し、何か言葉を話していた。
けれど、聞こえない。言葉が届かない。