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【名探偵コナン】sangría

第42章 決意と



「っお、お前……なんで……!」

「あなたのお仲間は、全員下で気絶しています。この部屋は……フロントで聞いたら、すぐに教えてくれました。随分と、詰めが甘いみたいですね」

――舐められたものだ。

彼が低く小さく呟いたその瞬間、数発の銃声が静寂を裂いた。
肩、腕、足。急所を外しつつも確実に動きを封じる箇所に、正確に弾丸が撃ち込まれていく。
苦痛に満ちた呻き声が響く中、銃を構えた彼の顔には怒りすら浮かんでいなかった。
ただ、張り詰めた静けさだけがその場の空気を支配していた。
取り巻きの男たちにも、それぞれナイフを叩き落とすように無駄なく一発ずつ。
その無慈悲さに、一瞬たりとも迷いはなかった。

全員が沈黙すると、彼はようやく銃をゆっくりと下げ、私のもとへ駆け寄ってきた。
乱雑に縛られた私の腕に手をかけると、慎重にひとつひとつ解いていく。


「……悪い。遅くなった」


その声に、ようやく安堵が広がる。
彼は自分のジャケットを脱ぎ、そっと私の肩にかけてくれる。
そっと頬に触れたその手のひらがあたたかくて、思わず目を閉じた。
そのまま、彼は私を横抱きに抱き上げられる。
もうしがみつく力すら残っていないというのに、それでも彼は、壊れ物でも抱くようにしっかりと、丁寧に私を支えてくれた。

振り返りざま、彼は男たちを鋭く睨み据える。


「……二度と、俺のものに触れるな」


その声は、驚くほど静かだった。
だが、その静けさの奥に滲んでいたのは凍てついた怒りではない。燃えさかる、底の見えない激情だった。
押し殺してなお滲み出る怒気に、男たちは息を呑み、誰一人として目を合わせようとしなかった。
沈黙の中、彼は私を抱えたまま迷いなくその場を後にした。



「……ご、めん……」


かすれる声で、私はようやく言葉を零しす。

絶対に邪魔しないって、約束したのに。
それなのに捕まって、薬を打たれて、こんな無様な姿まで晒してしまった。
悔しくて、情けなくて、涙すら出ない。

私はそっと、彼の胸に顔をうずめた。
その体温に触れた瞬間、張り詰めていた心が音を立てて崩れていく。
震える声で、「ごめん」「ごめん」と、何度も何度も繰り返した。

彼は、何も言わなかった。
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