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【名探偵コナン】sangría

第42章 決意と



男は楽しげに笑いながら、小瓶を掲げて中の透明な液体を見せつけた。
注射器の中に薬剤をゆっくりと吸い上げていく。


「筋弛緩剤ってやつだ。ちっと強めのな。2~3分で手足の感覚がなくなって、声も出せなくなる。ただ、意識ははっきりしてるってのがミソだ。その代わり効果は半日も持たねぇが……ま、その時にはお前はもうこの世にいねぇからな」


男はにやりと口元を吊り上げながら、注射針を私の太ももに迷いなく突き立てた。

「っ……!」

鈍い痛みの後、冷たい液体が身体の中に流れ込んでくる。血管を内側から押し広げるような異物感。
それらが全て打ち込まれる頃には、手足の感覚がじわじわと遠のいていった。


「こうなりゃ、もう抵抗はできねぇよなぁ?」


男は満足そうに笑い、ついさっき突き刺した私の太ももをねっとりと撫で回す。


「あいつが来る頃には、お前はどうなってるだろうな」


不愉快な声と共に、男の手がシルクのドレスを這う。
指先に力がこもり、布地が鈍く裂けていく音が部屋に響いた。ビリ、ビリッ……と断続的に。
体に力が入らない。逃げ出したいのに、もう足も腕も言うことをきかない。


「……やめっ…」


しびれ始めた舌でようやく絞り出した言葉は、すでに力を持たなかった。男はあざ笑うように私の耳元に顔を寄せ、熱い吐息を感じさせながら囁く。


「そんな声じゃ、誰も助けに来ちゃくれねぇよ」


腰まで裂けたドレスの隙間から、冷たい空気が肌を掠める。
吐き気を催すほどの不快感が、薬の影響で動かせない身体を蝕んでいった。

―――その時、


パン!パン!パン!
けたたましい銃声が、部屋の外から連続して響いた。


「なんだ!?」


男が飛び上がるように振り向く。
部屋の中の部下たちも一斉に動き出した。


「おい、何があった!?ドアは閉めて――」


バァン!!

怒号と共に、ロックされていたドアが突き破られた。
粉塵と煙が舞い散り、視界が一瞬霞む。


「………離れろ」


地を這うような、低く凍てつく声が響いた。
あまりに冷たく鋭いブルーが、こちらを真っすぐ捉えている。


パン!!

「聞こえなかったか。今すぐ彼女から離れろ」

撃たれた弾は、男の頬をかすめて床にめり込んだ。
その威力と殺気に、男は腰を抜かし情けなく這いずりながら私から距離を取る。
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