第42章 決意と
「バーボンって、私が今日一緒にいた男のこと?
残念だけど、彼とは今日が初対面。私は今日指示を受けてここに来ただけだから。あなたのその計画は無駄だと思うけど」
つまりは、彼がここに来なければいいということだ。
私がこの場をやり過ごせば、彼が殺されることはない。
「……フッ、はっは、あははは!」
突然、男が高らかに笑い出した。
「ハッ、何にも無しにお前を連れてくるわけねぇだろ?タレコミだよタレコミ。お前があいつの女だっていう情報が入ってんだ。あの男を庇いたかったんだろうが、そうはいかねぇ。
残念だったなぁ!!」
不愉快な笑い声が部屋中に響く。してやったとでも言いたいんだろう。
それを止めるように、男の携帯が鳴った。ポッケからそれを取り、「どうだ?見つかったか」というような話をしながら私に背を向ける。
その間、この部屋を見渡した。
男の取り巻きは計4人。ドア付近に2人、男のそばに1人、私の横に1人。全員手にはナイフを持っている。
男が電話に向かって「なに!見失っただぁ!?」と叫んだ瞬間、私はすぐ横にいる男の足を勢いよく払った。
反動で落ちたナイフを拾い、縛られていた手をほどく。
「形成逆転。足まで縛らなかったのが運の尽きね」
一瞬にして、男の首にナイフを突きつけた。
「全員動かないで。下手に動けばこの人の喉元が開くわよ」
無精ひげの男は電話を切り、眉をひそめながらも素直に両手を上げた。
「へぇ、見かけによらずやるじゃねぇか」
「それはどうも。ほら、早くこの部屋から出しなさい」
「……お生憎、そりゃできねぇな」
その言葉と同時に、妙な違和感に気付いた。男の目が僅かに斜め下を向いている。
……ジャケットの内ポケットから、黒光りする金属が覗いていた。
パンッ!!
気付いた時には、もう遅かった。
耳を劈くような破裂音が響き渡り、ナイフを持つ手がはじかれる。
衝撃で体制を崩した瞬間、背後から誰かが飛び掛かり床に押さえ付けられた。
再び手首を縛られ、口元には冷たい金属の感触。
「ったく、手間かけさせんじゃねぇよ。……おい!あれ持って来い」
私に拳銃を突きつけたまま、男が指示を出した。
持ってこられたのは、怪しい小瓶と注射器。
「また暴れられると困るからな。これで大人しくなるだろ」