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【名探偵コナン】sangría

第42章 決意と



すると、その場にいた別のガードマンがすぐに耳打ちをし、目の前の人物は一瞬の沈黙ののちに「失礼いたしました」と小さく頭を下げた。
無事に通されたことに胸をなで下ろす。

案外いけるものなんだな。私、才能があるのかもしれない。
なんて呑気に考えながら会場へ一歩足を踏み入れた瞬間、視界がきらめきで満たされた。
高い天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、光の波紋を辺りに落としている。
会場にはテレビや雑誌で目にする著名人たちの姿が多く見られ、その場の空気に思わず背筋が伸びた。

目立ってはならない。だが、怯んでもいけない。
自分がこの空間にふさわしい存在であるかのように振る舞わねばならないんだ。
何食わぬ顔でウェーターからグラスを1つ受け取り、静かに歩を進める。

……が、明らかに見られている。少々ざわつく周囲の視線は、私に向けられている。
流石にこのドレス姿には無理があったか?
いや、似合っていないことは重々承知しているが、こればっかりはどうしようもない。
何か変だろうか?髪型か?アクセサリーか?
この場で浮くことだけは避けたい。注目を集めるなんて本位じゃない。目的を果たすまでは、どうか怪しまれずにこの場にとどまりたい。
そう思っていたその時、背後から徐に話しかけられた。


「おひとりで?」

振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。
年の頃は四十代半ば、政界の人間だろう。立派なスーツに、隙のない物腰がそれを物語っている。
けれどその視線はあまりにねっとりしていて、背筋がぞくりとした。


「こんな場でおひとりとは驚きました。あまりにお美しくて、つい」


話し方こそ丁寧だったが、軽薄な下心が透けて見える。
無視するわけにもいかず、私は作り笑いで適当に相づちを打った。
早く会話を切り上げたい、そう思うほどに男の距離は一歩、また一歩と近づいてくる。

気まずさと居心地の悪さに困っていた、その時。


「失礼。僕の連れでして」


突然、すっと肩を抱かれた。
穏やかだけど有無を言わせぬ力で、ぐっと引き寄せられる。

聞き覚えのありすぎるその声に、胸が跳ねた。


「1人にして悪かったね。行こうか」


目の前の男は何やら文句を垂れているが、そんなものはお構いなしに彼は踵を返した。
速足で手を引かれ、慣れないヒールでおぼつかない中を必死に歩く。
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