第42章 決意と
そして、当日。
カードに記されていたホテルに予定通り到着した。
送られてきたドレスとパンプスを身につけ、手持ちの中で最も場にそぐうアクセサリーを選ぶ。
髪はきっちりと結い上げ、片手には小さなクラッチバッグ。
ヒールを鳴らしながら、ゆっくりと歩を進める。
……背中が、寒い。
ホルターネックのこのドレスは、首元で結んだリボンを背中に垂らすデザインになっている。つまり、背中を覆う布がほとんどない。
さらに、足元には深いスリットが入り、こちらも防御力はゼロに等しい。
両親の仕事に付き添って、格式あるパーティーに出たことはあるが、それも20年近く前の話。
この歳になってから、こんな場所に足を踏み入れること自体が久しぶりで、この装いにも慣れない。
全体的に、すごくスースーする…。
だがそんなことに文句を垂れる余裕などない。
重厚なガラス扉が、背後で静かな音を立てて閉じた。
ホテルのロビーに足を踏み入れた瞬間、空気が一変する。冷ややかで、張り詰めた空間。足元の大理石には煌びやかなシャンデリアの光が映り込み、反響するヒールの音がやけに大きく感じられた。
会場の扉の前には、数人のガードマンが立っている。悔しくも、警備体制はばっちりらしい。
その前を涼しい顔を装って通り過ぎようとした、そのときだった。
「お連れの方は……?」
背後からそう言われ、引き止められた。
そりゃあそうだ。
こんなパーティーに女一人で入ろうとしているなんて怪しいことこの上ない。
だがしかし、ここで足止めを食らうわけにもいかない。
歩みを止めてすぐに表情を戻し、ゆっくりと振り向く。
「先に、中へ入っております」
努めて平静を装った。
このパーティーは、表立っては政財界のお偉いさん方が親睦を深めることを目的として行われているらしいが、その実、裏献金の打ち合わせや政策への口利き等々所謂闇取引を行う場である。
招待状なんて物はない。特にこういった場の女性の立ち位置は、いわばお飾りだ。一人一人を確認なんてすることは基本ない。
つまり、堂々とした立ち居振る舞いのみが今この場を左右する。
役者魂の見せ所だ。……果たしてこれで通じるのか。