第42章 決意と
【saide】
あれから1ヶ月が経った。
特に大きな事件が起こることもなく、最近はほどほどに仕事に追われる毎日だ。
長らく事件や事故、テロなどに振り回されていたせいか、ようやく心が落ち着いてきた気がする。
とりわけ今日は、珍しく定時で帰宅できた。
夕食はどうしようか。外食もいいが、こういう日だからこそ自炊すべきか。そんなことを考えながら最寄り駅からの道を歩く。
自宅に到着すると、ドアの前に人影があった。
宅配便の配達員らしく、ちょうど不在票をポストに投函しようとしていたところだった。
そのままサインをして、荷物を受け取る。両手でなければ持てないほどの、そこそこの大きさの箱。重さも軽すぎず、重すぎず、ほどほどだ。
ネット通販なんて普段あまり使わないのだが、一体何が届いたのだろう。
不審に思いながらも早速開けてみると、なんと中には眩い程に真っ白なシルクのドレスが入っていた。
腰回りがタイトで裾が広がったロング丈のマーメイドラインドレス。
その隣にはこれまた高級感のあるピンヒールパンプス。シルバーのラメが惜しみなく施されており、ヒールの高さは10cmほどだろう。これを履いて転んだら、足首が無事では済まなさそうだ。
もちろん、こんなものを買った覚えはない。買おうと思ったことすらない。
配達ミスか?
しかし、箱には間違いなく自分の名前と住所が記されている。
肝心の差出人欄には「同上」としか書かれていない。もちろん自分で自分に送ったなどという記憶もない。
つまり、差出人不明。
一体どういうことなのか。
訝しみながら箱の中をもう一度覗くと、底に一通の封筒を見つけた。
開けてみると、中には一枚のカードが入っている。
『――Vermouth』
カードには、達筆な筆記体でそう記されていた。
それを目にした瞬間、息が詰まるような感覚に襲われる。
Vermouth――ベルモット。
ワインをベースに、ニガヨモギなどのハーブやスパイスにより香味づけをされてつくられるフレーバードワインの一種……なんて冗談はもういいだろう。