第5章 諍いと義憤
「私、天才って言葉嫌いなの。
まるで、何の努力もしないで、生まれ持った力だけで勝ち取ったみたいなその言い方、
不愉快極まりないわ。
ゼロの何が気に食わないか知らないけど、今のあの成績は、それ相応の努力を積み重ねて得たものなの。
天才なんて簡単な2文字で片付けていいようなものじゃない。
言葉には気を付けなさい」
静かに諭すように、でも言葉の端々に怒りを感じる言い方。
今まで散々言い合いをする姿は目にしてきたが、こんな風に静かなのは初めてなため、萩原と松田でさえその気迫に押されていた。
当の3人は、ベビに睨まれたカエルとでも言おうか、固まって動けない様子である。
「……ご馳走様でした」
1人手を合わせてそう言うと、綺麗に食べ終えた食器を片付けに立ち上がった。
「おい」
食器を指定の場所まで持っていき、戻ろうとしたその時、背後から聞き馴染みのある声で呼ばれた。
「……なに」
「ちょっと来い」
「っ、ちょ、」
の返事なんて聞かずに、その腕を掴んで歩く降谷。
しかし、掴む力は特段強いわけではなく、振りほどこうと思えば出来る程であった。
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「で、何よ?」
「……」
突然連れ出したかと思えば、話し始める様子のない降谷。
この状況に多少の苛立ちを覚えながら、腕を組んで言葉を待つ。
…そして、この2人の様子を覗く影が2つ
「おい、あいつらやばくね」
「昨日みたいにならなきゃいいけど」
「止めに入るか…?」
1人で片付けに立ったを慌てて追いかけ、その後降谷に連れていかれる所を目撃していた2人。
先程の件での機嫌がよろしくないのは確か。
昨日のような言い合いになれば、再び教官にド突かれるのは免れないだろう。
居ても立っても居られず、仲介に入ろうとしたその時、
背後から揃って肩を掴まれた。
「大丈夫だよ」
「見守っててやろうぜ」
慌てて振り返ると、そこにはニコニコ顔の伊達と諸伏。
この状況に似合わない表情をしている2人に困惑する萩原と松田。
いやでも、この2人が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろうと、4人で揃って物陰から降谷とを見守ることにした。