第41章 真相を知るとき
「え、なんで……?」
「何でって、次来たときに困るだろ?」
“次”って……。
言われた言葉に混乱していると、ゼロが私の手を取って諭すように口を開く。
「……会いたくなったら、いつでも来て良い。待ってるから」
優しく揺れる瞳に見つめられて、キュウと胸が鳴った。
電話番号と言い、この家と言い、最近のゼロは私に甘い。甘すぎる、気がする。
何とも言えぬこそばゆさに苛まれながらも、小さく頷いた。
「じゃあ、僕も風呂に入ってくるから」
ポンと私の頭に手をのせてから、ゼロは脱衣所に入っていった。
1人になった部屋を見渡す。失礼だが、本当に生活感が無い部屋だ。
ギターとテーブルとベッドの他に物はなく、もちろんテレビさえもない。
一体何日をこの部屋で過ごしているのだろう。
もしかして、今日の帰宅も数日ぶり、下手したら数週間ぶりだったりするのだろうか。
無理に押しかけてしまった申し訳なさが募る。
ふと、使用感の目立たないキッチンを覗く。
フライパンやグラスはかろうじてあるが、それでもやけに物が少ない。
そんなこれまた生活感を感じないキッチンだが、一つだけ目を引くものがあった。何かのビンだ。
近づいて手に取ると、薄暗い中でも分かるほどきれいな琥珀色の液体が中に入っている。そのラベルには筆記体で“Bourbon”と書かれていた。銘柄は分からない。
3分の1ほど減ったそれを眺めていると、背後から奪われた。
「何してるんだ」
「あれ、お風呂は?」
「今あがった」
はや。
まだ数分しか経ってないのに、もう風呂からあがったのか。烏の行水かよ。
「……なぁ、相談なんだが」
手に持ったビンを戸棚にしまって、徐にそう口を開いた。
「なに?」
「……今から、出掛けないか?」
「え、今から?」
もう日を跨いでから数時間が経過している。深夜から早朝に移り変わろうとしている時間だ。
そんな時間に外出したって、きっとどこも開いていない。
「出掛けるって、どこに?」
「………海」
忙しい彼にとって、休む時間は貴重なものだろう。
きっとベッドで寝ることさえそうそうないはず。だから、今日みたいな日は、しっかりベッドで睡眠を取りしっかり体を休めて欲しい。心からそう思う。
………けど、“海に行きたい”というその言葉に、とても惹かれてしまった。