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【名探偵コナン】sangría

第41章 真相を知るとき



「…ヒロ」


もう一度、今度は唇をしっかりと動かして。

幾年ぶりに口にしたその名は、驚くほどに口に馴染んだ。このたった2音が耳に心地よかった。……そう、実感すればするほど、それ以上を求めてしまう。
私は再び唇を薄く開き、恐る恐る喉を振動させた。


「…はぎ」


他よりも少し長い髪を靡かせて、軽いようででも頗る温かい笑みを浮かべる姿。


「……だて」


厚い皮と骨ばった大きな手で私の頭をわしゃわしゃと撫で、何があっても安心出来る大きな背中。


「……まつだ」


口も態度も悪いのに、気が付いたら歩幅を合わせて隣にいてくれるあの存在。



「……みんなに…会いたい…」


声も、匂いも、何もかも全て鮮明に思い出せる。それなのに、どんなにその名を声に出しても、誰も応えてくれない。


「会いたいよ……」


どれだけ訴えたって、決して叶うことは無い。

分かってる。痛いほど。
この数年間、何度も突きつけられきた現実だから。
分かってるけど、何度も、何度でも願ってしまう。

ーー……あの頃に戻りたい、と。



______
【降谷零side】


ドアをふたつ挟んだ先から、啜り泣く声が聞こえてくる。どんなにシャワーの水音が響こうと、僕の耳には彼女のか細い声がしっかりと聞こえてきた。
ーーかつての、仲間たちの名を呼ぶ声が。


自ら番号を渡しておきながら、きっと電話をくれることはないだろうなと考えている自分がいた。逆の立場なら、多分躊躇すると思うから。
でも、少しだけ期待している自分もいた。僕と同じくらい、も僕を求めてくれないかって。
だから、例え激務後に帰宅して間もない時だったとしても電話の着信に心が跳ねた。そしてすぐに、そんな自分を呪った。


『……あ、い、…たい…』


やっとの思いで聞こえた声は、今にも消え入りそうなものだった。ただ事ではない、僕に電話を寄こすくらいなのだから。
瞬時に邪な心は捨て、家を飛び出した。
心当たりのある場所を虱潰しに探そう。どれだけ時間が掛かるかわからないけど、を見つけるまで探すんだ。
さっきの電話で場所を聞くべきだったか。いや、時間的にも気持ち的にもそんな余裕はなかったのだから仕方ない。悔やんでたって見つかるわけじゃない。とにかく探そう。



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