第41章 真相を知るとき
ボサボサだった髪が粗方整うと、ゼロは私の左頬には手を添えて親指で目元をなぞった。それが少し擽ったくて思わず片目を閉じてしまう。
そんな私を見てゼロはやはり笑っていた。だが、その目はなんだか憂いでいるような気がした。
「とりあえず僕の家に向かう。このままじゃ風邪を引くからな」
そう言って、車を発進させた。
とっくに日付を跨いだ深夜のこの時間では、後続車も対向車もそうそう現れない。街頭だけが照らす道路を、ただひたすらに進んでいく。
______
到着した頃には、雨は上がっていた。
『MAISON MOKUBA』と記された小綺麗なアパート。ここが、今のゼロの住まいらしい。
カツカツと外階段を登り案内されたのは、最奥に位置する角部屋だ。
「お邪魔します…」と恐る恐る部屋に入ると、まず初めに出迎えてくれたのは綺麗に整頓されたダイニングキッチン。
「風呂の準備をするから、奥の部屋でくつろいでいてくれ」
言われるがまま奥の部屋へと進む。
八畳ほどの和室の真ん中にローテーブル、そして壁際にベッドが置かれていた。ベッドを背にローテーブルの傍へ腰を下ろす。
明らかに物が少ないこの部屋で真っ先に目を引いたのは、スタンドに丁寧に置かれたアコースティックギター。
異様な存在感を放つそれに目を奪われていると、風呂の準備を終えたらしいゼロが部屋へと入ってきた。
「ねぇ、あれ」
目線はギターのままそう呼びかけると、ん?と首を傾げながらゼロが隣に腰掛ける。私の視線をなぞった先にギターを見つけると、あぁと納得したような声を出した。
「弾けるの?」
「聞きたいか?」
まだ"うん"と言っていないのに、ゼロは立ち上がってスタンドからギターを持ち上げるとその場にあぐらをかいた。ネックを左に構え、右手指で弦を1本ずつ弾いていく。いくつかのペグを少しずつ回しチューニングを終えると、徐に曲を弾き始めた。
ーー誰もが1度は耳にした事のある、心地の良いホ長調の音色。
「…ふるさと」
そう呟くと、肯定の意を示すようにゼロが微笑んだ。
「僕が最初に覚えた曲だ」
ーー……は、音楽好き?
その顔が、すごく、ヒロと重なった。