第40章 絡繰箱
そう話す友寄さんの手には、1冊の料理本が握られていた。
「私が本当に手に入れたかったのは、宝石と一緒に入っているもう1つの物のほう。
先ほど少年と警部さんの言うとおりに探しましたらこの料理本の中から例の紙を見つけましたので、箱を開けて中の確認をいたしましょう!」
「じゃが、そのもう1つの物も彼奴に取られてしまったかもしれぬぞ?」
「大丈夫ですわ。それに価値を見出せる者は、この世ではもう私しかおりませんので」
そうして降りた柵は相談役のリモコンによって上げられ、中の絡繰箱が取り出された。
友寄さんが見つけた紙に書かれた手順に沿って、相談役が慎重に絡繰箱を開けていく。
「イタタタ…」
「ん?どしたの博士?」
「また腹の具合が…」
「じゃあ、さっさとトイレに行ってきなさいよ」
そんな会話が、背後から聞こえてきた。
「それにしても、怪盗キッドはどうやってあんな暗い中で絡繰箱を開けたんだろう?」
「キッド様からしたら、あんなのちょちょいのちょいなのよ!」
「いや、怪盗キッドは箱を開けていないと思うわ」
「「え?」」
「あの時流れたオルゴールは『大きな古時計』だったでしょう?あの曲はアメリカ人のヘンリー・ワークが1876年に作曲したんだけど、日本に伝わったのは1940年。幕末の絡繰師が知るわけないもの。
恐らくあれは、怪盗キッド自身がスマホか何かで流したんじゃないかしら」
「ってことは…」
その時、『きらきら星』のオルゴールが静かに鳴り始めた。
絡繰箱が無事開封されたようだ。
私の予想通り、中は手付かずの状態。
立派な月長石ともう1つ、使い古されたノートが丁寧に仕舞われていた。
友寄さんは真っ先にそのノートを取り出すと、中を数ページ捲ってからとても大事そうに胸に抱えた。
箱の本当の中身とは、ご主人との思い出そのものである、あの交換日記だったのだ。