第40章 絡繰箱
「え、何?停電?」
「キッドよ!キッド様が来たんだわ!」
「ったく、警察を中に入れないからキッドに配線をいじられちまうんすよ」
「心配無用じゃ。たとえ彼奴が来ようと、この暗闇の中であの絡繰箱は開けられぬわ」
確かに、ただでさえ開けることが困難なあの絡繰箱をこの不明瞭な空間で開けることはほぼ不可能だ。だが、あの怪盗キッドがなんの考えもなしに暗闇を作り出すとは考えられない。
と、その時、穏やかなオルゴールの音色が鳴り響いた。
「この曲って、『大きな古時計』だよね?」
「うん。確か、箱を開けると曲が流れるって…」
ガシャンッ!
今度は防犯装置の柵が閉まった音。
「何をしておる!早く明かりを復旧させい!!」
これには流石の相談役も焦っている様子。
そんな中、コナンくんが光る腕時計を手に絡繰箱の元へと走り出した。
それとほぼ同時に、辺りはパッと明るくなった。ようやく照明が復旧したようだ。
「絡繰箱は無事か!?」
コナンくんの後を追い駆け付けた我々の視線の先には、柵の中の机にしっかりと鎮座する絡繰箱の姿があった。
「なんだ、取られてねぇじゃねぇかよ」
「…いや、待ってください。絡繰箱に何か刺さってます」
箱の姿を確認して安心したのも束の間、箱の側面に白いカードが刺さっていた。
そこにはキッドマークと共に『箱の中身は頂戴した』という文字がしっかりと記されている。
「そ、そんな馬鹿な!!あの暗闇の中、この僅かな時間で三水吉右衛門の絡繰箱を開けたと申すか……!?」
見事にやられたな。流石は、月下の奇術師様だ。
「じゃあ、ワシらもお役御免じゃな。帰っていいかのう?」
「いや、柵と連動した防犯シャッターはちゃんと閉まっておる。彼奴はまだこの中にいるはずじゃ!
館内にいる全員の顔を引っ張ってでも彼奴を見つけてくれようぞ!!」
「それはおやめください」
悪役宛らの笑みを浮かべる相談役の元に、友寄さんがゆっくりと歩み寄った。
「言ったはずですよ。ここに絡繰箱を展示する条件として、この図書館に来たお客様達には一切無粋な真似をなさらないでと」
「しかし奥さん、あんたの旦那の遺品である月長石が」
「宝石の1つや2つ、わざわざ箱を開けに来てくれたお駄賃としてくれてやりますわ」