第40章 絡繰箱
「お料理と言えば、主人は料理好きな私のために何冊もお料理の本を買ってきましたから、その本なら全て穴が空くほど読みましたけど」
「じゃあ、料理の本はスルーしてよさそうだな」
という訳で、再び全員で料理本を除く部屋中の本をパラパラとめくる作業が開始された。各々部屋の四方へ散らばって、本を取っては捲り取っては捲りを繰り返す。
「蘭!今何時?」
「え?えーと、もうすぐ8時を回るところ」
「はぁキッド様はまだかしら」
「流石に今回はキッドでも宝石を盗むのは難しいんじゃない?あのすごい防犯装置とか三水吉右衛門の絡繰箱があるんだし」
「何言ってんのよ蘭!あんなの、キッド様からしたら屁でもないっての!」
そんな会話が隣から聞こえてきた。
「ね?さん!」
「そうねぇ。怪盗キッドの最大の障害は、他にあるかもね」
そう答え、顎に手を当て思考を巡らせる彼に視線を向けた。
恐らく、キッドはもうこの図書館に侵入を果たしている。となれば、既にこの部屋の誰かに変装して潜んでいるということだ。
その事に彼はとっくに気付いている。きっと今、その人間を突き止めている最中なのだろう。
さてさて、今回も中々手強い戦いになりそうだな。
「あのー、参考になるかどうか分かりませんが…」
ひたすら本を捲る作業のみでは手詰まりだと感じたのだろう。
友寄さんが、徐にご主人との思い出を語り出した。
なんでも、2人は学生時代に交換日記をしていたそうで、その日記がとても不思議だったんだとか。
ご主人が左のページ、友寄さんが右のページに書く約束をしていたのだが、その日あった事やご主人に対する思いなどを書こうとすると大抵1ページでは納まらなかったそう。だから、ご主人が左のページに書けるように友寄さんは3ページ分びっしり書いていた。しかし、それに対してご主人はいつも数行書いてあるだけだったらしい。
「単にご主人が筆無精だったんじゃ…?」
「ええ、当時私もそう思っておりました。
ですが結婚したての頃、主人の机の上にその交換日記が置いてありまして。若い頃の自分の拙い文章を読みながら、恥ずかしさと懐かしさが入り交じった思いでページをめくっておりましたら、突然目に飛び込んできたのです。学生の頃見た覚えの無い、主人が書いた文章が2ページに渡ってびっしり書き込まれているのが」