第40章 絡繰箱
「沖矢さん沖矢さん、これも中々に面白そうです」
「『化けの皮が剥がれるとき』。ほー、ホラー小説ですか」
「沖矢さんにピッタリですよね」
「……さん?」
「ひょ、ひょうらんれす」
沖矢さんに頬を緩く掴まれたため、「冗談です」が変な日本語になってしまった。
いや、ジョークじゃないですか。そんな微笑みながら怒らないで欲しいな。
「随分仲がいいのね」
そんなやり取りをしていると、哀ちゃんが3冊ほど本を持って私たちの間に割って入ってきた。
「目的、忘れてるんじゃないの?」
そう言いながら、一冊の本を沖矢さんへと差し出す。
その本を盗み見ると、なんとそこには表紙いっぱいに『開眼』という文字が並んでいた。
思わずプッと吹き出す私と、真顔でその本を見つめる沖矢さん、そして随分得意げな哀ちゃん。
傍から見たら頗る奇妙な光景であろう。
その後も、面白いタイトルの本を見つけては沖矢さんに差し出すという行為を哀ちゃんと繰り返し行った。
それからしばらく経たないうちに、コナンくん阿笠さん毛利さんがトイレから戻ってきた。
「あれ、蘭姉ちゃんと園子姉ちゃんは?」
「2人とも、コナンくん達のすぐ後にトイレに行ったわよ。でも、女子トイレ混んでたから、戻ってくるまでもう少し時間がかかるかも」
「そっか。
それで、紙は見つかったの?」
「えっ!?あ、えーと…」
まさか本のタイトルで遊んでいたなんて言えない。
「いやまだ。見たことないミステリーが揃っていてね、つい読み込んでしまったよ」
沖矢さんがすかさずフォローを入れてくれた。ま、確かに間違ってはいない。
すると、図書館の中央に置かれた絡繰箱の様子を見に行っていた友寄さんと鈴木相談役も戻ってきた。
「あら、お醤油とみりんの匂い!肉じゃがかしら」
「ああ、はい」
沖矢さんの袖口に鼻を寄せ、友寄さんがそう言った。
「その人、ここへ来る前に肉じゃが作ってたらしいから袖口に零したんじゃない?」
「まぁ!お料理なさるんですの?」
「ええ、まぁ」
「私も肉じゃがは得意料理!主人の大好物で、主人のお母様に直々に教わったんですのよ」
「へぇー昴さんって料理するんだ!」
「意外!」
蘭さん園子さんもトイレから戻ってきて、これで再び全員が本の部屋に揃った。