第40章 絡繰箱
「あら、興味無いんじゃなかったの?」
「どうにも気になってしまって」
饒舌に語ったこの人は、長身眼鏡の大学院生でお馴染み沖矢昴。
まさか怪盗キッドの現場でまで遭遇するとは。
「なんで沖矢さんがいるんですか…?」
「阿笠博士宅でこの絡繰箱の話を聞いたものですから。
あなたこそどうして居らっしゃるんですか?仕事のようには見えませんが」
「失礼な、列記とした仕事です。
それに私、こう見えて怪盗キッドの現場の常連なんですよ」
自慢げにふふんっと鼻を鳴らすと、何やら怪訝な顔をされた。
何故?
「て言うか、沖矢さんよくここに入れましたね」
「阿笠博士の知り合いだと話したら、ノーチェックで素通りでしたよ」
おいおい、そんな警備で大丈夫なのか2課さんよ。
「今回はそういう方針じゃ。
流石にあからさまなキッドファンは入館を断っておるが、一般客は入れておるよ」
あーなるほど、相談役の指示だったのか。
毛利さんも零していたが、確かに一般客が大勢いることには驚いた。
「箱もこの通りテーブルの上に置き、特に見張りも付けておらぬ」
「ちょっとおじ様、それじゃ箱を持ち逃げさせるんじゃないの?」
「心配無用じゃ。
このスイッチを入れておけば、テーブルの下の床に埋め込んである重量センサーが作動し、誰かが入った時の増えた重さと出た時の減った重さが1グラムでも違えば……」
テーブルから絡繰箱を持った相談役が床にある線の外側に出た瞬間、ガシャン!!と大きな音と共に丸い檻が落ちてきて相談役を取り囲んだ。
三水吉右衛門ばりだな。流石、天下の鈴木次郎吉相談役だ。
「もちろん、箱をこっそり開けて中の宝石だけを持ち去ろうとしても同じことじゃよ!」
「こっそりなんて開けられませんわ。箱を開けたら、内蔵されているオルゴールが美しいメロディーを奏でますから」
友寄さん曰く、夜中にどこからか聞こえるオルゴールの音色を辿ってみると、ご主人が書斎で絡繰箱を開け中身を愛でたあと、ネジを巻いて元の箱に戻していた姿を目撃したのだと言う。